20歳エジプト紀行7 [バフレイヤ・オアシス、白砂漠 後編]

 

 

エジプトに行くと決めたとき頭に思い描いていた光景が白砂漠だった。
長いこと思いを馳せていると勝手にイメージが膨らみすぎて期待を裏切られてしまうんじゃないかなんて思っていた。
けど、そんな不安は吹き荒れる突風によって砂礫と共に跡形もなくどこかへふっ飛んでった。

本物にしか宿らない真実がそこにはあった。

くぅ〜!これだから旅はやめられん。

 

 

白砂漠に突入

 

 

f:id:shinataro-ebiikakani39:20181021000433j:image
f:id:shinataro-ebiikakani39:20181021000436j:image

(白砂漠への境界線付近。その正体がだんだん露わになっていく。) 

 

白砂漠は元々海底だった地盤が、風土の変化によって起こった強烈な乾きで地表に現れたものだと言われている。
海底だった頃に積載した石灰岩と、海流によって削られたオカシな形をした奇岩が地上にありありと存在している様には有無を言わさぬ感動がある。

 

 

f:id:shinataro-ebiikakani39:20181021000608j:image

(鳥とキノコに見えることからチキンマッシュルームと名付けられた奇岩)

 

 

陽が日没に差し掛かり、外が徐々に肌寒くなってきた。
1日の間に気温がここまで変化すると、日中に回った場所が別の日の別の国での出来事のように思えてくるなー。
なんて考えていると、シャイアが前方を指差し、ジェスチャーでこう言った。

シャイア「今日はあそこで寝る」

思わず雄叫びで返してしまった。

「おおおお!!!」

シャイアが指差した先には、大きな岩々によってできた小さな集落みたいな場所が!!!!
思わず車のドアの窓に腰かけて上体を飛び出させた姿勢でそこを眺める。

フロントガラス越しじゃないと尚良い!

 

 

f:id:shinataro-ebiikakani39:20181023230044j:plain

 ( iPhone5sだと白砂が夕陽に当たって白のまま写せない笑)

古代の人々はここに辿り着いた時、そこに街があると勘違いしたのではないだろうか。

 

 

そんなこんなで本日の拠点に到着。

 

f:id:shinataro-ebiikakani39:20181021001550j:image

長いこと悪路を走ってくれてありがとう。



息を大きく吸い込み、カチコチになった背筋をグーーっと伸ばしながら、ゆっくりと深呼吸。大きく息を吸い込むと、その一回だけで口内の唾液が全て奪われるほど、空気は乾ききっている。

空はもちろん雲ひとつなく、地にはもちろん人どころか生き物が存在しない。

なんというか今までとは別の人生が始まったみたいだ。

 

 

長い運転の直後なのに、働き者のシャイアはエンジンを止めるや否や、せっせと砂漠用テントを張り始めた。
とりあえず手を貸すことにして、二人で簡易的なテントの骨組みを組んで行く。
チャキチャキと手際のよいシャイアを見て、ちょっと日本人っぽいなとか思いながら、数分である程度立ち上がってきたところで、シャイアは「ここからはもう大丈夫だ」と言い、ひとりで作業を進めていった。

とりあえずここからは手伝うこともなさそうなので、堪えきれずジェスチャーで聞いてみた。

「ちょっとその辺ぶらっと散歩してきてもいい?」

するとシャイアは少し心配そうな顔をしながら渋々okしてきた。
どこからどう見ても彼の顔には「あまり遠くへ行くなよ」と書いてあったので、
「ノープロブレム!」とだけ言い残して、日没をゆっくり眺められそうな場所を探し始めた。

少し歩いて振り返ってみるとシャイアはテントの立ち上げと同時並行で焚き火の準備を始めていた。ほんとに働き者だなー。

f:id:shinataro-ebiikakani39:20181024000853j:plain

 

 

f:id:shinataro-ebiikakani39:20181024001414j:plain

目の前に林立する奇岩たちは個々で別の形と大きさをしているので、目印となりそうな岩を見つけやすい。
それを良いことに、距離を気にせずただひたすらに歩き続けた。

しかし、日が落ちるにつれて意識はハッキリしているのだが、どうも頭が回らなくなってきた。

夕日を眺めるという目的すら霞んでいく。

なんというか、歩いているという自覚のないままどこかに誘われているかのように前に進んでいるような感じ。
やがて頭は思考することをやめて、たった今置かれたこの瞬間に溶けていった。

自分の中の野生がいつもより出しゃばって来たのだろう。

 

 

ここは死の世界であると同時に、生を喜ぶ場所なのかもしれない。

 

その証拠に、はるか遠くの太陽がえらく優しい。 。

 

 

 

 

 

f:id:shinataro-ebiikakani39:20181021002925j:image

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オーーーーーーーイ

 

どこかからか雄叫びが聞こえてきた。
振り返ると、遠く彼方でバンダナをブンブンと振り回しながら大声で叫ぶシャイア。
やべっ!完全に忘れてた!!!!

いつ登ったのかあまり覚えていない巨岩を急いで降りて、シャイアの元へ走って戻る。

安堵の表情を浮かべるシャイアにゴメンゴメンと両手を合わせると、彼は「まあとりあえず座れよ」とテントの方を指差した。
するとどうやら俺が歩き回ってた間に焚き火でチャイ(エジプトティー。紅茶に近い味。)を立ててくれていたらしく、そこにどっさりと砂糖を入れて渡してくれた。

うひょーーありがてええええ。と、寒さで小刻みに震えながら受け取った。

 

とりあえず一呼吸。

シャイアと二人並んでテントに腰掛け、エジプトのタバコを吸いながら地平線に沈んで行く夕日をぼーっと眺める。

 

すると、寡黙なラブーフが乾き切った風に吹かれながらそっと呟いた。

 

 

 

「サハラ...」

 

 

 

 

はっは!!まったくキザなエジプシャンだ。 

その時のシャイアの目は淀みなく砂漠の果てを見つめていた。彼にとっての砂漠が何なのかは知らないし、これも現地サービスなのかもしれないけど、俺にとっての砂漠にはもう彼の存在が色濃く刻まれてはじめていた。

 

 

 

f:id:shinataro-ebiikakani39:20181021003550j:image

(沈んだ夕日の光で浮かび上がったスカイライン)

 

 

 

 

そしてやがて太陽が完全に沈み、待ちに待った夕食タイム!!
シャイアが火を立ててスープ、チキン、チャーハンを振舞ってくれた。
これがまたほっぺたが落ちるほど美味いのだ!!!
長旅で腹ペコだったので、ガシャガシャと一瞬で喰らい尽くした。
にしても、一日中カラダ動かして最後にたらふくの飯にありつくなんていう生活はいつぶりだろうか。
体の奥底から喜びが全身に染み渡っていくのを感じる。

f:id:shinataro-ebiikakani39:20181021003921j:image

 

 


f:id:shinataro-ebiikakani39:20181021003925j:image

あったけえ。。

ご馳走もなんとか平らげ、シャイアは持参のペットボトル水でざっと食器を洗い、一つのビニール袋に全部まとめてキュッと縛った。
そして少し前から沸かしていたチャイをコップに2杯注いで、一仕事終えたようにテントの絨毯にドシンと座った。そりゃそうだ。昼間の運転からぶっ通しだったもんな。

そんな感じでシャイアが立ててくれた食後のチャイをすすりながらタバコを吸ってぼーっとのんびりチルタイム。あたりはもう完全に真っ暗。音ひとつない。
と思いきや、静寂の中で突如ガサガサという音とともに目の前を何かがヒュッと通り過ぎた。
その方向にじっと目をこらすも、焚き火が照らすその先は暗闇で何も見えない。
するとシャイアが口でヒューッヒューッと口笛を鳴らし始めた。
立て続けに暗闇の方へ余った肉を投げ始め、おいおい勿体ねえな!と思った矢先、暗闇から現れたのは予想に反してとっても可愛いお訪ね者だった。

 

 

 

 

 

 


f:id:shinataro-ebiikakani39:20181021003929j:image

「フォクス!フォクス!」と嬉しそうにシャイアが指を差すもんだからすかさず写真を撮る(笑)

フェネック!まさか会えるとは!
しかし肉を軽く齧ってまた暗闇に姿をくらました。
おお〜。いいもん見た。

 


夜のサハラは凄まじいほどの満点の星空だと聞いていたが、待ちわびた夜空に浮かんだのはそれはそれは大きな満月だった。
おかげで満点というほどの夜空は見れなかったけど、代わりにそれは夜の探索を可能にしてくれた。
月明かりが照らす夜のサハラはとてつもなく研ぎ澄まされていて、日中とは全く違った冷たい表情。
一瞬その鋭さに腰が引けそうになるが、空を見上げればそこには、昔っから何も変わらない見慣れたお月さま。

ただ今夜ばかりはいつもより格段にべっぴんさんだ。

 


ここからがまた強烈な冒険だったのだが、まあ正直言ってあんまり覚えていない。
というより今の自分の力では説明できない。
鮮明に覚えているのは月に照らされたある一つの巨岩が地面から出てきた大きな顔に見えて震え上がったことくらい。
いつもなら一目散に逃げているところだが、なぜかそこに居座ろうと決心し、結局そこに何時間か立ち往生して、ずーっと何かを考えていた。
その後もフラフラと彷徨いながら空と大地を独り占めにした気分で次の岩へ次の岩へと移動していった。

今思えばそこそこ危険な夜だったかもしれない。外的な脅威に対して無防備だったとかではなく、自分自身の問題で。

 

 

深夜3時前、テントに戻ると焚き火は消えていて、シャイアの姿はそこにはなかった。
車の向こうかどこかで寝ているのだろう。

砂と乾燥でカピカピになったコンタクトを外し、用意された寝袋に鼻まで潜り込む。
ああ〜こりゃ極楽だ。
こうして明日も目覚めたら信じられないような光景が目の前に広がっていて、また新しい冒険が始まるのか。

思わずにやけてしまう。

このまま寝るのもったいねぇなー。

いやーそれにしても長い一日だっあなぁー。

 

 

 

 

 

 

 

本当長い一日だったー.........

 

 

 

 

 

(2日目終了。続く...)