20歳エジプト紀行9 [アスワンへ 後編] 9月7日

 

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(バカシンプルな形をしているが、国土面積は日本の2.6倍。その9割が砂漠だ。)

 

 

 

バスの中では、出発する前から到着した後までしっかり眠っていたので、便利に瞬間移動した気分だった。

ぐっすりスヤスヤ夢心地も束の間、見知らぬ女性の乗客に叩き起こしてもらい、運転手にバスから追い出されてみたら、そこは馴染みも目印もない場所。

あーらら。完全に迷子じゃん。

 


9月7日 PM04:00 

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異国にてインターネットが繋がらない状況下で迷子になるのは、一瞬ドキッとする。

バスを降りた俺は、砂煙の立ち込める高架下で呆然と立ち尽くしていた。

一瞬のパニックが頭を過ぎ去ったら次は、"そんなんじゃ生きていけないぞ"という危機感が頭を我に返させてくれる。

ああ!もう思い切ってタクシーに乗っちまおうか!

 

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半ば投げやりに通りの方に出る。

車がビュンビュン通り過ぎていく。こんなところでタクシーなんぞ止められんなと頭が理解する。

すると、ビビッドグリーンのヘッドホンを肩にかけたノリノリのあんちゃんが近づいてきた。やっぱり東洋人は相変わらず人気なんだな。(カモとして)

しかし、いつもの金銭目当てのご来客とは少し雰囲気が違うようだった。

 

あんちゃん「おい迷子か?どこに行きてえんだ?」

「んー。まずここがどこだか分からないんだけど。。」

あんちゃん「ここはカイロだよ!おい、あんた大丈夫かい?笑」

「ああいや、それはわかるんだけどさ(笑)じゃあ、ここから考古学博物館は近い?」

あんちゃん「まあ〜、車で15分くらいだな。タクシー乗ってけよ。」

 

お、なんだ!よかった。意外と近いじゃん!安心した。

しかし驚いたのはその後だった。

あんちゃん「まあここで待っとけよ。」 

そう言ってあんちゃんは、ビュンビュン道路に飛び出てタクシーを捕まえてきてくれたのだ。

 あんちゃん「ここは車両が溜まらないから体張らないとタクシーが止まらねえよ!運転手にはぼったくらない様に言っておいたから(笑) そんじゃな!」

そう言って再びヘッドホンを耳に当てると、彼はそそくさとその場を去っていった。

もう言葉がなかった。

日本からはるばる一人で来てるがいつだってひとりじゃ何も出来やしないのだ。

そして、エジプトの人たちはいかなる局面でも基本的に異常なほど優しい。

 

だめだ。もっと積極的にこの人たちと交わろう。

もちろんユーモアやモラル、品のあるアプローチで。

お邪魔してる身なんだから当たり前だ。

 

 

さあ。カイロに帰るか。

 

 

 

 

 

 

 

 

PM 17:00

もはやホーム感すら感じるカイロの街を、多種多様な騒音の粒子に包まれながら、オンボロタクシーがゆったり走る。

運転席はもうシャイアじゃない。街に帰ってきたことをしっかりと認識するまで少し時間がかかりそうだ。

 

とりあえず情報を得るためにゲストハウスが集まる地区へ向かおう。

現地のゲストハウスは旅行代理店の様な営業も兼業していて、比較的やすい値段でツアーが組めたり、電車の切符を手に入れることができる。

昨日、白砂漠へ向かう時のギチバスでなんとなく、”帰ってきたら深夜特急に乗ってエジプト南方都市のアスワンへ向かおう。”と決めていたので、あらかじめアリから紹介されていた宿へ切符を買いに行った。

レセプションの兄さんがインテリ系だったので、切符はすんなり手に入り、荷物は一旦宿に預けておくことにした。

 

電車の時間は23:45発。

さて電車の時間まで何をしようか。と考えていたら、イカツイ日本人男性と仲良くなり、彼も暇とのことなので軽く街でも歩くかということになった。彼のことは龍くんと呼ぼう。(ちなみに宿ではジャパニーズマフィアとか言われていた)

カフェでシーシャを吸いながら色々話して、龍くんの知り合いで世界を自転車で一周しているシゲ(仮名)と合流し、3人で夜のハンハリーリへ。

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(ハンハリーリの様子。人がごった返している。)

ハンハリーリとはもともと12箇所あったカイロのバザールを1つにまとめた大バザール。近年は旅行者向けの土産物屋やカフェの集まりになっているが、とにかく毎晩お祭り騒ぎだ。

人々の喧騒と過剰な照明による眩さ、どこからか聞こえてくるエジプシャンミュージック。まさに異国の繁華街といった感じだ。しかしこの街では、と言うよりこの国では、酒も女もギャンブルも禁じられている。よってこの喧騒はナチュラルハイの賜物なのだ。

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イスラム圏はみんな酒を飲まないので夜はカフェでシーシャや甘い甘い紅茶を飲んで盛り上がる)

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(エジプト版)

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(照明のお店もたくさんあった)

 

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(ハンハリーリの中心にあるガーマホセインという有名な巡礼地。異教徒は入場できない。)

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(カイロは普通にこういう街がポンと出でくる)

特に何を買うわけでもなく3人でバザールをぶらぶら歩いていると、ちょうど俺と同じか少し下くらいの現地の少年達が声をかけてきた。

『ヘイ!にいちゃん達!一緒に遊ぼうぜ!』

隣のジャパニーズマフィアが明らかに嫌そうな顔をしていたが、ここはいっちょ遊ぼうやと説得。

彼らはみんな18歳以下の5人組でよくここで遊んでいるらしい。

言葉もそこまで通じていなかったように思えるが、国境を超えて同世代と意思疎通を取るのはやはり特別な出来事だった。

少し厄介な言い方をすると、"この出来事はなんら特別なことではない、ということを気づかせてくれた"という意味で特別な出来事だった。

不思議なことに、一緒に遊んでいると、自分たちと彼らはなに一つとして違わないということに気づいていくのだ。

ボールを蹴るのはなんか楽しいし、ご飯の時間は生き甲斐だし、寝るのが大好きだし、恋をするし、古い友達としか共有できない笑いのツボ、でも新しい友達ができるととても嬉しい。

 

この歳で夜に友達と会っちゃうのとか、めっちゃ安心するもんな。心の底から楽しいよな。すげえわかるわ。

 

 

 

 

 

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(最年少のシャイボーイ。一緒のスノウで遊んだらすごい驚いてた。前もってダウンロードしてきて良かった〜。)

 

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(自分が写ってる写真の中でも数少ないお気に入りの1枚。みんな良い笑顔でしょ。)

たった数分ほどの交流だったが、最後は無責任に「絶対また会おうな〜」なんて言い合いながら別れた。多分もう会うことはない。そんなことは向こうもわかっているし、それでもお互い「絶対また会おう」と言ってしまった。

同じことを思っているだけで嬉しいのだ。きっとそれすら向こうも一緒。

なにも違わない。

 

 

さあそろそろ列車の時間だ。

 

 

 

 

PM 22:30 カイロの安宿

先ほど切符を買った宿にバックパックを預けていたので、タクシーに乗って戻る。

宿で荷物を受け取って、龍くんとシゲに別れを告げ、宿を出発しようとしたら、同タイミングで出発しようとしていたリカとエイタも、今から同じ電車でアスワンへ向かうとのこと。色々話してたら流れで一旦行動を共にすることになった。

二人とも関西人で、エリカはサバサバ系の元気なお姉さんという感じ。確か京都からだったけな?

反対にエイタはマイペースで口数も少ないいい奴そうなタメの大阪人だった。

こっちに来て日本人と行動するとは思わなかったが、なんとなく今日は二人が魅力的に感じたので、自分の中で「どんなに居心地が良かったとしても1,2日程度で別れる」と決めて共に旅をすることに決めた。

 

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(お久しぶりラムセス駅)

PM 23:45 ラムセス駅

もうあたりは真っ暗なのに駅のホームは大量の乗客で溢れかえっていた。

公共施設であるとは言え、日本と比べたらガッツリ無秩序化しているので、みんな番線をまたぐ時は線路に降りて渡って行ったり、端っこの暗がりでは、明らかにここで生活してますよねという人たちもいた。

これが国内最大級の駅であるラムセス駅。

しかし、この薄暗さとか危険な匂い、野生の質感がこの砂漠の夜の空気にはぴったり合っているので、まあこうなるのが自然だわなといった感じだろうか。これだって、ひとつの健康的な有様だと思う。

 

さて。エリカとエイタとは車両が違ったので一旦別れて、個人的に長らく念願であった砂漠の深夜特急に乗り込んだ。すると連結部分からすでに治安が悪く、パーカーのフードを被った大型の男性がタバコを吸いながらブツブツしゃべっている。おお。喫煙所はここなのか。

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(連結部分。真っ暗だったので明るく加工してもこれ。)

席は意外とゆったりしており、座席自体も安い皮仕上げではあるが、座ってみると体が軽く沈むレベルの柔らかさで、ある意味期待を裏切られた感じだった。

さてこっからは約17時間の乗車。向こうに着く頃には昼過ぎだ。

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(この車の所要時間は大嘘)

 

ギギギと音を立てながら車両はゆっくり走り出し、あっという間に最高速度に達した。これが意外と速いのだ。

 

朝5時に白砂漠で起きてからずっと行動していたので体は疲労困憊なはずなのに、なぜか全く眠くなかった。

外は真っ暗だし窓の汚れでそもそも何も見えない。

なのに"移動時間は窓の外を眺める"というのが完全に癖づいてしまって、なにも見えない漆黒の景色をボーーっと見つめていた。

 

 

 

 

気づくと、だんだん暗闇に引き込まれていく。

 

 

 

 

ガタンガタンという音、揺れ。

 

 

 

 

 

これも非常に心地よい静寂だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

列車はナイル川に沿って、およそ800km南の都市へ向かっている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

p.s.

驚くことにこれでまだ3日目