20歳エジプト紀行8 [アスワンへ 前編] 9月7日
am 04:00
深い眠りだったのか浅い眠りだったのかはわからない。
寝袋の寝心地が体に合わなかったわけでも無いし、途轍もない寒さに襲われたわけでも無い。
なのになぜか、1時間で目が覚めてしまった。
こんなことは日本の生活では起こりえないので何度も時計を確認したが、やはり1時間。あたりはまだ暗いままだった。
けど、このまま二度寝なんて勿体なさすぎると思い、寝袋から体を出して肌寒い風をしのげるくらいのパーカーを羽織って近くの丘へ移動した。シャイアはまだ寝ているだろう。
良さげな丘を発見。足を滑らせながらズルズル登って建物3階くらいの高さから暗闇を見つめてみる。
すると、あれ不思議だ。
昨晩は何度も飲み込まれそうになったはずのその暗闇はもはや脅威ではなく、ただただ暗いだけの黒一色。それ以上でも以下でもなかった。
しかし、そう思ったも刹那。
それはそれは一瞬の出来事。
見つめていた方向の遠くのほうで、視線のいきつく一点を中心にして地平線に橙色の光が左右に向かって走り抜けたのだ。
お。これは見覚えがあるぞ。
初日のフライトで空から見たアイツだ。
光の一線は徐々に拡散されていき、大きなオレンジ色のメラメラとした太陽があっという間に砂漠を照らし、他の何でもなく紛れも無い"朝"が訪れた。
これほど朝日に感謝したことは今までに一度もなかったかもしれない。そして、ここでようやく暗闇に怯えていた奥底の自分に気づく。思い返せば恐ろしい夜だった。頭も心も空っぽになった何かに変わった自分があてもなくフラフラと彷徨っていたのだ。
3日目の始まりにして、なにもかも許してくれるように黙って頭を撫でてくれる母のような光に涙が止まらなくなってしまった。
日が昇る前から無意識に日の出の方角を見つめていたのもなんら不思議なことではない。飼い主の帰りを待って玄関を見つめる子犬と同じ。
なんて浸っていると、遠くから自分の名前を呼ぶシャイアの声が聞こえてきた。
ああ帰る時間だ。
この感覚、持って帰れるかな。
(シャイアが朝ご飯を作ってくれた。これまた絶品!)
さて。
誰のものでもない砂漠の一部を散らかした片付けをする時間だ。
朝ご飯を済ませ、シャイアと一緒にせっせとテントを解体する。
明るいところで改めて見ると、なんつうロマンに溢れたテントなんだ。
するとシャイアがこんなことを言ってきた。
シャイア「ここがサハラだよ。何か良い発見を得ることができたかい?」
すると、英語のテンポのまま俺は無意識なまま咄嗟にこう答えていた。
「うん。けどまあ、また来るからそこはあんま気にしてないよ。」
うお。我ながらその通りだ。
また来れるかは確実じゃないのが自然の摂理だが、思考ではない綺麗な丸っとした感覚だけは片付けて車に乗せずに置いたままにしておこう。
(ちょっとテンション上がってカッコつけて撮ってもらった一枚)
帰路は取り立て何が起こるわけでもなく、観光スポットとなってあるチキンマッシュルームと呼ばれる鳥とキノコに似た奇岩(正直、これより好きな岩がたくさん見つかった)を見たりしながらバフレイアオアシスに到着。
俺にサハラを教えてくれた恩人とのお別れ。
とは言ってもまあここはアッサリで、お互いクサイ言葉を掛け合うでもなく、フラットに別れを告げた。
「また来いよ」
「もちろん」
そこからまた3時間ほどかけてバスでカイロに戻る。
乗り込んで出発する前に身の回りのセキュリティだけ確保し、早速爆睡。
起きるともうそこは喧騒と乾燥の都市カイロであった。
pm 16:00
一仕事終えた運転手に追い出されるようにして、バックパックを背負ってバスから降りるとそこはどっしりとした高架線の下。
相変わらずそこにたむろしている現地の人々から強烈な視線を向けられ、ウッとなる。
排気ガスと屋台の煙で視界が霞む。
明らかに他とは違う様子な老人に絡まれる。
俯きがちに擦り寄ってきた子供から粗雑な編み込みのブレスレットを買う。
短い時間で色んな出来事がパンパンに詰め込まれる街に帰ってきた。
。。。ふむふむ。
さて、一体ここはここはカイロのどこなんだろう。
(続く)