20歳エジプト紀行6 [バフレイヤ・オアシス、白砂漠 中編] 9月6日
p.m14:45
愛おしきチビっ子2人に別れを告げ、バフレイアオアシスを後にする。
ここからはドライバーさんと完全なる2人旅だ。
目的地が”人のいる場所”から”何もない場所”に変更され、本格的に砂漠に放り出される。
それはそれは想像をはるかに超えるほど孤独な旅だった。
だけど、ずっと前から心のどこかで求め続けていたものだ。
ハイ!カメラを向けると、気の良い笑顔を返してくれた彼こそがこの旅のドライバーさん。
こう見るとやっぱこの人、シャイアラブーフに似てるな。。。
ドライバーさんなんて呼ぶのもなんか味気ないし、ここからはシャイアと呼ぶことにしよう。(名前は何度も聞いたが、発音が難しすぎて覚えられませんでした。)
彼は英語がほとんど話せないので、可能なコミュニケーションの手段はボディーランゲージか表情か初級英単語のどれかだ。
けど、それで全然良いから一人のツアーにしてくれとアリに頼んだのだ。
現地のバックパッカーたちには「そんなのリスクが大きいし不便だ。」としつこく団体ツアーを勧められたが、言葉なんて喋れなくても互いに通じ合える自信があった。
むしろ初めて赴く憧れの地で、今日会ったばかりの人とベラベラ喋って仲良くするってのがどうもしっくり来ない。
ってなわけで本来なら団体ツアーで行くのが旅行者の中では一般的らしいが、アリの協力もあって俺のわがままを通してもらい、プライベートツアーにすることができた。
なので、小煩いガイドや指示も無ければ、行動や時間を誰かに制限されることもない。
何にも邪魔されない気ままな旅だ。
p.m 15:45
延々と続く1本道をかっ飛ばすこと約1時間。オアシスを出てからいまだに車とすれ違っていない。
そうしているうちに、あたりの黄色い砂たちが少しずつ黒ずんでいき、やがて一面が黒になった頃、シャイアは車を砂漠に乗り出して停車した。
最初の目的地、黒砂漠に到着だ。
その名の通りここらへん一帯の砂漠は、まるでカンカンと照りつけるアフリカの太陽で丸焦げになってしまったかのように黒ずんでいるように見えるのだが、真っさらな砂の上に火山灰が被ってそう見えているだけなのだそう。(地球の歩き方より)
すると車を停めるやいなや、シャイアがボディランゲージで「ここで待ってるからその辺の山登って来いよ」みたいなことを言ってきたので、そこそこ高いやつを登ってみることにした。
少し登って振り返るとこんな感じ。(傾斜が伝わりづらい)
車を飛び降り、大きくノビをして軽い足取りで山に向かう。
...がしかし、50mほど歩いたところで立ち止まる。
そういえば肝心なことを忘れてるぞ。
そう。なんの懸念も無く邪魔なバックパックを丸ごと車に置いて手ぶらで出てきてしまったのだ。
このまま自分の荷物ごと車で走り去られたら結構しんどい。。ってか死ぬな(笑)
車で1時間なら最悪歩いて道を戻ればなんとかなるか。
いやでも水が無いわ。。。
......とかなんとか一応考えるのだけど、こういう時ってだいたいもう何を考えても足が言うこと聞かん(笑)
めんどくさい!もうこのまま登ってしまおう!
アリやシャイアを信じているし、何より山の上からの景色がいち早く見たいのだ。
ってなことで、そんなこんなで思ったよりもキツかったけど登頂。
頂上から見渡した辺り一帯は、地面からドカドカとブチ上がってきたような漆黒の山々が群れをなしていて、どこを見渡しても最高にロックンロールだ。(肝心の頂上からの写真は撮り忘れてました。笑)
そんで、ここまで何度も言って来たと思うけど、改めて砂漠ってすげえ広い。
頂上からの景色を眺めていると、この世界には本当は砂漠しかなくて、そのど真ん中にたまたま自分が立っているのだけなのではないかと錯覚してしまう。
もしくは、地球とは別の惑星に来てしまったかどちらかだ。
さて、続いての目的地はクリスタルマウンテン。
一見ただの小さな岩山って具合なのだが、目を凝らしてその岩肌をよーく見てみるとこんな感じ。
ああこれはクリスタルだわ!別に普段見慣れているわけではないけどこれはクリスタル!
触ったら痛そうだな〜!と思ってなんとなく指の腹で軽く押すように触ってみたら結構痛かった。
硬いんだね〜クリスタルって。
しかし、訪れた旅行者が次々とそこらのクリスタルを削って持ち帰るから、ずいぶんと量が減ってしまったそうだ。世界的観光地(今となっては人っ子一人いないが...)とはいえ砂漠を管理するなんてのは随分と大変なことなんだろう。
4WDは更に奥の砂漠に向けて走り出し、落ち始めた夕陽が少しづつ砂一面をオレンジ色に染めていく。
しばらくして車は、舗装されたアスファルトの道から外れ、今までずっと窓から眺めてた砂漠の上へと走路を変え、砂と岩の道無き道を走り始めた。
車内では何度か頭を天井にぶつけながら、相変わらず取り憑かれたかのように沈む夕日と砂漠の山々を眺める。
走る道がアスファルトから砂漠になっただけで速攻気分は有頂天だ。
ウヒョーーーー!!!
窓から押し入ってくる突風を吹き返す勢いで雄叫びをあげてしまう!
BGMはシャイア選曲のエジプシャンミュージック!
最高だ。正直、風とBGMの音で自分の叫び声すらまともに聞こえないけど(笑)
すると突然、車の速度がグイグイ上がり始めた。すぐさま隣をみるとシャイアがワルな表情でニヤリと笑っている。
うそ!シャイアそういう感じ!?と思い、俺も「もっと上げろもっと上げろ!」と煽りまくっていたら、気づいた時には車が、砂の隆起と沈降の上を滑走するジェットコースターみたいになっていた。
どうやらさっきの叫び声は彼の方に届いていたらしい。
車と同じようにふたりのテンションも止まることを知らず、大声でラジオから流れる曲を歌い上げる始末。笑
これはもう本当に良かった。このあと、この瞬間を何度も思い出すことになったくらいだ。映像や気温や砂漠、音楽、あとは風とか気分とかそういうものが混ざり合ってなんかもう思考なんてとっくに追いていないような、とても幸せな時間だった。
ほら、やっぱり言葉無しで通じ合えるじゃんか。
(そら腕も丸焦げますわ)
ほどなくして車は白砂漠を目の前にした謎の大木の下で停車した。
シャイアは、「ちょっくら小便小便〜」みたいな感じでその大木の陰に小走りで消えて行ったのだが、その背中を追っかけてくと...
おいシャイア。名スポットだろここは。
日の落ちるタイミングもバッチリじゃないか。
あ、でもマジで小便してるわ...笑
いい写真も撮れた。
なんだかんだ俺もそこで用を足し、少し時間に余裕がありそうだったので、すぐそばの小高い岩に登って座ってみる。
すると、たちまち心地の良い孤独感が全身を包んだ。
体がいつもの何倍も軽い。このままいなくなってしまいそうだ。
見渡せば向かう方角の砂漠が白い。
待ちわびた瞬間はもうすぐそこだ。