20歳エジプト紀行4 [カイロ、ギザ 後編] 9月5日

 

 

 

『ヤッラー』

これは、アラビア語で「行け!」とか「行こう!」という意。

この旅で何回も使うことになるこの言葉を最初に使ったのはこの時だった。

3大ピラミッドとスフィンクスを見て回ったあと、そこから少し離れた小高い砂の丘の上で暇を持て余していたラクダ使いのおっちゃんに教えてもらった言葉。言われた通りに「ヤッラー!」と叫んで馬を蹴り上げてみると、待ってましたと言わんばかりのとんでもないスピードで相棒が駆け出し始めたのだ。おいおいこんなことしていいのか!と思いつつ、気がついたらもう病みつき状態。

 

「ヤッラーー!!!」

 

人気の少ない砂漠を、余った時間でひたすら叫びながら馬で駆け回る。少しでも気を抜いたら振り落とされそうだ。にしてもこの相棒とは、最初に比べて格段に連携を取れるようになって来たなぁ。この時なんかは、多分こいつの出せる最高スピードで走っていた。人間なんかでは到底及ばない速度で突っ走る体の躍動を直に感じれる。目に入る砂埃なんて一切気にならない。と言うより、気にしてられないと言った方が正しい。その瞬間は、笑えるけど、まさに砂漠の風になった気分だった。

うん、これも全部アリのおかげだ。

 

「ヤッラーー!!ヤッラーーー!!!!はっはっはー!!!」

 

 

 

 

 

うし。そろそろ帰りますか。もうここは満足だ。多分、明日からまた世話になります。サハラ砂漠さん。

 

 

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ラクダ使いのおっちゃん。

 

 

衝撃的な初めての砂漠の余韻にどっぷり浸りつつ、フラフラと最初の建物まで戻る。するとアリとその友人たちは、建物前の木陰のテーブルで楽しそうに談笑していた。昼間っから気の知れた男たちでこぞって酒も飲まずに(エジプトはイスラム圏なので、酒は飲まない)みんな楽しそうにゲラゲラ笑ってる。一度砂漠に出てからここに再び帰って来ると、そんな彼らの姿がなんだかとてもグッときてしまった。死の世界と隣り合わせのここは今、人が休息できるほどとても涼しい場所だ。

 

そこに汗だくで帰ってきた俺を見るやいなや、アリが言った。

「はっは!派手に遊んできたみたいだね。最高だったかい?」

もう、ここでなんて答えたかなんて言うまでもない。 

 

とまあ、なんかこっちもこっちで楽しそうだったんで、散々走らせた相棒から降りてから、軽く談笑に加わって話してみた。そしたらその中の一人の若いあんちゃんが、俺をそういう対象として気に入ってくれたらしく、「カワイイ!うちに遊びに来ない?」なんて誘ってきたんだけど、まあこの際、一旦彼の性別を気にせずに考えたとしても、もっと紳士的な誘い方の方がイイんじゃねぇかなと思いながらキッパリ断り続けました!

馬の頭を撫でながら、そのやりとりをハタから見てゲラゲラ笑っていたアリが言った。

 

「アイツは君のことが好きらしいね(笑)まあそれはさておき、階段ピラミッドや他のピラミッドはどうする?」

「ん〜今日はもうギザはいいや。1日中アリに世話になる訳にもいかないし、そろそろカイロに戻ろうよ。」

「そうか。ならカイロに戻ってとりあえずコシャリでも食おう。腹、減ったろ?」

 

ああそっか!エジプトに着いてからノンストップで動いていたから今まで気づかなかったけど、こっち着いてからまだなんも食ってねぇ!もう夕方前じゃんか!

ちゅうことで、とりあえずカイロに戻ってアリおすすめのコシャリ屋へ行くことに。ちなみにコシャリはエジプトのいわゆるソウルフードってやつで、豆と麺と米をちぎって混ぜ、そこにトマトソースをぶっかけた料理。これがまたエスニック料理とはまた違ったスパイシーでガツンと来る辛さ。それでも、およそ17時間ぶりにありついた食事だったので、口にかきこむ右手は止まることを知らなかった。

そこでアリと明日の日程を相談していたら、どうやらアリは学校の教師ながら旅行関係のつながりが多く、詳しくはわからないが昔はそう言ったビジネスもやっていたことがわかった。現在もその名残で知り合った旅行者に格安のツアーを紹介したりしているらしい。(どうりで普通の現地の学校教師とは思えない風貌と堪能な英語なわけだ。)

なんだそういうことなら、明日のツアーは彼に頼んだ方が良さそうだ。向かうは、ここから約400km離れた白砂漠と呼ばれる地帯。そこは、もともと海底だった所が、干ばつで陸に出てきて砂漠となった場所。そこに今もなお残っている、海底時に海流によって削られた岩の大群は、写真で見てもため息が出るような景観だ。そんな異世界にて、テントで一泊できるツアーがある。さっき砂漠を回っていたときに行こうと決めたのだった。

そんなこんなで通常の商人みたいにグイグイしてこないアリとの交渉はスムーズに済んで、すんなり明日の予定が確定したのだった。

ということで、明日の朝6時に宿近くのマックでアリと落ち合うことを約束し、別れる。ああ、旅の初めっからここまで信頼できる人に出会えたことには本当に感謝でしかないな。

 

 

 

 

 

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アリと別れた後はカイロ探索。本の地図を頼りにひたすら歩き続けて、日が暮れる頃に、ナイルにかかる橋から見た夕日。エジプトの太陽は常に大きくて凄まじく眩しい。おまけに空には雲一つないため、こんなのが1日の半分の間地表にカンカンと照りつけてるのだから、そんなの暑いに決まってる。ここで改めて言っておくと、エジプトは初日から最終日にかけてずっとバカみたいに暑かった。

 

 

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現地民しか乗っていない地下鉄。薄暗い車内にて、自分が異物にしか感じないこの感覚、悪くないな。乗車した瞬間は皆んなこっちを見てくるのに、カメラを構えた瞬間にみんなに視線を逸らされた。

 

そして、1日目最後の目的地に到着。

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ここはラムセス駅。まるでファラオたちが残した財宝の中に飛び込んだかのような煌びやかな装飾が特徴で、且つここからエジプトの主要都市のほとんどに移動できるといった、なんともパワフルなスポットだ。明後日に白砂漠から帰ってきて、そのままエジプトの南端にあるアスワンへ向かう乗車券を買うために来たのだけれど、ここの鉄道は現地人を優先的に乗車させるため、カウンターで散々言い合いをした結果、外国人の俺ではチケットを買うことができなかった。ただ、そんなことはとりあえずどうでも良くて、むしろここで一番記憶に残ったのは、周りに居たエジプト人たちが協力してくれて、俺にチケットを買わせようとしてくれたこと。実際にエジプトに行ってみて知ることができた大切な事実のうちの一つとして、エジプト人はとても素直で人懐っこくて優しい人たちだということを最初に切に実感した瞬間だった。結論から言うと、この旅では彼らの優しさに何度も救われた。もちろんそれはお金の話を抜きにした場合に限る。しかし、それが彼らの仕事だから仕方のないことなのだ。

 

 

 

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そしてこれが本日の宿。天井の高いドミトリーの部屋を独り占めしてしまった!

とても長かった1日目も、気がつけばもうずいぶんと夜が深まって来た。

シャワーを浴びて、そのまま砂まみれの服類を洗濯し、明日の荷物をまとめてベッドに深く体を埋める。あっは〜。宿ってこんなに安心するもんだったっけ。

そうして、いつもより少し遠い天井を眺めながら少しの孤独と共に深い眠りについたのだった。

 

 

 

 

 

 (続く)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

p.s.

とある友人がこのブログを肴に酒を飲んでる、と言ってくれた。

この文字数からして、明らかに見てる側のことを考えたブログではないんだけれど、こればっかりは素直に嬉しかった〜。

ありがとうなー!