20歳エジプト紀行3  [カイロ、ギザ 中編] 9月5日②

 

 

昼前のカイロの街をハイスピードでかっ飛ばす銀のセダンは、ある大きな橋の真ん中あたりで路肩に寄せて停車した。

颯爽と車から飛び出して、食いつくように橋の柵にしがみついた俺の目の前に広がったのは、世界最長級の大河川、ナイル川だ。国土の大部分を砂漠が占めるエジプトでは、南北一直線に国を縦断するナイル川の流域に大都市や集落が発生していて、カイロはその北側の下流域にあたる部分に位置している。エジプトという砂漠の国で生きながらえている生命のほとんどがこの川のおかげだろう。

 

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郊外に向けて走っている途中、窓からナイルを見て興奮していた俺を見計らって、アリが橋の上の特等席に車を停めてくれた。しばらくの間カラッと乾いた風に当たりながら悠久の川に身を委ねたあと、太陽の反射でスキンヘッドをピカピカ輝かせているアリに「これずっと見たかったんだー。ありがとう。」と伝え、車に戻る。

 

前回、カイロの街で出会ったアリに「ピラミッドまで連れてこうか?」と誘われた俺は結局、彼の車でカイロから1時間ほどのギザまで行くことにした。なぜアリが会ったばかりの俺にここまでしてくれるのかは、この国で彼と別れる時が来るまでどうせ分からないことだし、俺の目ではどうしても彼が悪い奴には見えなかったのだ。 

 

そんなこんなでナイルに寄り道した後、郊外に出た車は住宅群を貫くフリーウェイをひた走る。エジプトの車道は東南アジア、中東特有の渋滞と交通規制の緩さだが、アリは俺とずーっと会話しながら、力の抜けた運転でスピードの変化なくスイスイと他の車たちを避けていく。そしてカイロを出発して40分ほど経った頃、アリがこう言った。

アリ「お。右斜め前の奥を見てごらん。」

右斜め前。。。いや奥まで建物ぎっしりじゃんか。。。

。。。ん?。。。。おお!そういうことか!

砂埃で霞んではいるが、住宅群の奥に2つの四角錐の頭が確かに見えた。そう。ピラミッドだ。片方の上部にはちゃんと化粧岩が表面を覆っている。でっけえな〜。ってあれ?こんな市街地のすぐ真横にあんのか。。

そして、そこからさらに進むと、地平線いっぱいまで広がる砂漠が姿を現した。地平線とは言え、ここまでの規模で砂が広がっていると、どちらかと言えば肌色の海のように見える。

この時はさすがに、自分がこの身1つでとても遠いところまで来ている実感が込み上げてきた。それは単に物理的な距離の話だけでなく、憧れ続けてきた道のりとか、文化の垣根を踏み越える最初の一歩だとか、たくさんのことを含めての話なんだろう。

そんなことをしみじみと感じながらアリに向かって「俺、人生で初めて砂漠を見るよ。」と呟いたら、アリは口元に笑みを浮かべながら「Welcome to Egypt.(エジプトへようこそ。)」なんて言ってきた。いや〜それは反則だね、オヤブン!

 

 

 

フリーウェイを降りた車は砂漠と市街地の境界に沿った集落地帯のような場所へ入っていく。そこは一見、廃墟化したような建物ばかりだが、よく見るとどの家にも馬小屋やラクダ小屋があり、俺と同い年くらいの若者から小さな子供までもがそれらの世話をしている。彼らのまとう格好が質素であるのを見る限り、おそらくここはピラミッド周辺で展開されているラクダ・馬を使った商売の裏側といったところなんだろう。

その中の一角にある小さな建物でアリの友人と会い、その場で馬を借りた。馬はある程度乗り慣れているので、馬引き抜きでしばし砂漠旅。焦げ茶色の体に長い黒髪をした元気そうな相棒。よろしくな〜。

 

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これが砂漠と市街地の境界に張られた延々と続くバリケード。これの市街地側に沿った道を砂漠に向かう途中、自分と同い年ほどの青年たちが大勢で大きな馬に乗ってものすごいスピードで駆け抜けていく。これがまたとんでもなく力強くて逞しい。このように旅先では、自分の周りのとは全く異なる同世代のライフスタイルに勇気を貰うことが多いなぁ。

さて、この壁を越えるといよいよ砂漠とご対面。行こうかー! 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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視界を空の青と砂の色だけが支配する。風は弱く、強い日差しが照りつける。

 

 

 

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砂漠を進んで振り返ったカオスの街、カイロ。あまりに壮観だ。ここでは、砂漠と市街地というあらゆる”流れ”が対極的である両者が隣り合って息づいている。

 

 

 

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一直線でピラミッドには向かわずに、まず遠くから眺めて見ることに。

観光用の正式な入り口から歩きで入ったとしたら、すぐにピラミッドなので、ここまで深く砂漠に立ち入らなかったかもしれない。フリーウェイから見た時とは打って変わって、周囲に比較対象物のない砂漠では遠くから見るピラミッドは遠近感がつかめず、正確な大きさを認識しづらい。

 また、ここまで来て馬の足を止めてみると、周囲の音は風のみに限定される。他の旅行者もいなければ、普段の生活ではなかなか逃れられない機械音はもはや存在しない。物陰もないので、砂漠にいる間は雲ひとつない空から厳しく照りつける日差しを遮ることさえもできない。こうした環境に置かれると、徐々に自分の中の野生的な部分が物を言い出すようようになる。もっと普段の生活でもこういう瞬間が必要なんじゃないかと思った。

 

 

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さて。ピラミッド向かいますか。とりあえず順番にたどっていこう。

 

 

 

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メンカウラー王のピラミッド。三大ピラミッドの中では最も小さい約65メートル。間近で見ると、組み立てのあまりの精巧具合に関心はするものの、もうこの背後にどでかい2基が見えてしまっているので、1番の正直な感想は「小さいな〜」だった。すんません、メンカウラーさん。

 

 

 

 

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カフラー王メンカウラー王の親)のピラミッド。標高約136メートル。頂上付近に創設当時の化粧岩が残っており、地盤が高いため3大ピラミッドで1番大きく見えることから、世間的には1番有名なピラミッドなのではないだろうか。

 

 

 

 

 

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クフ王カフラー王の親)のピラミッド。標高約138.8メートル。平均2.5トンの石たちが約230万個積み上げられている。これは写真では伝わりづらいが、ピラミッド左下にいる見える観光客と比べて見て欲しい。これがまた信じられないほど大きい。ちなみにクフ王の姿は現在とても小さな像でしか確認できず、エジプト考古学博物館に眠っている。

3つとも、砂漠のあまりの広大さに、少し遠目でみると小さく見えてしまいがちだが、触れられるほど近づいてみれば、全くそんなことはなかった。そして何より、ピラミッドを見れたということに感服。ちょっともうこれに尽きるかもしれない。

 

 

 

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ピラミッド内部は暗くて狭くて天井も低いので、写真がこれしか無い(笑)あれだけの数の岩が積まれた内部にどうしてこんな空洞があるのか一瞬不思議でたまらなくなる。

 

ちなみに、この時期がシーズンじゃないことと、近年の旅行者の激減から、ピラミッドにさえほとんど外人観光客がはおらず、いたとしてもエジプト人の国内観光者か、たまーにお気楽な外国人ツアー団体くらい。それゆえに、やはり現地人からすると一人で回るバックパックパッカーが珍しくてたまらないのか、どこを歩いていても、国内観光者に「一緒に写真撮って!」とお願いされることがこっちでは日常茶飯事だ。正直、結構遠くから来てやっと今あのピラミッドにいるんだから、もう少しそっとしておいてくんねえかな〜。と思った。

にしても流石にこのピラミッド内部で頼まれた時は驚いた。どう見ても暗くてインカメの画面に何も写っていなかったからだ。

 

 

 

 

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スフィンクスの入り口。スフィンクスは周りをお堀で囲われており、露出はしているがより近くから見るためにはここから入って、小さな神殿を通らなくてはいけない。その流れで1度本体は見えなくなり、抜けた先の小さな入り口をくぐると、目の前にでっかいスフィンクスがドカーンと現れる。とても迫力のある演出だ。

 

 

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クフ王のピラミッドをバックにスフィンクス。あまりに見惚れすぎて、正面からの写真を撮り忘れてしまった。笑

 

この写真を撮影した直後、そこに居た4人ほどの子供達が話しかけてきた。

男の子「カメラ貸して!写真を撮ってあげるよ!」

ああ〜、なんて無邪気な笑顔なんだろう。

しかし俺は、同じように笑顔で言葉を返してやることができなかった。なぜなら、同じ手口で別の旅行客からバクシーシ*1を得ようとしている彼らを見ていたからだ。

「あ〜。いいよいいよ〜」と素っ気なく断ってしまった。今思えば何か自分のすべきことがあったのかも知れない。

彼らは一見、有名観光地で遊んでいるだけの子供達に見えるのだが、その正体はれっきとした小さな商売人。話に乗って写真を撮ってもらったが最後。その笑顔は一瞬にしてパタリと消え去り、「チップを寄越せ。」としつこくせがんでくる。 もはやそこには、ついさっきまでの無垢純粋な子供の姿はない。

しかしこれも彼らの仕事なのである。今まで、数々の小さな商売人を見て来たが、彼らに対して何をすることが正しいかは、やはりまだわからない。ただ一つわかることは、あまりに早すぎるが、世の中にはどうしようもできない不平等が存在していることを、この年齢にして彼らはもう既に知っているということ。

 

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自分勝手だが、彼らが将来もしここに来た時、そこにいる同じような子供達に対して「ピラミッドはそんな目をして見るもんじゃないぞ〜。」と言ってあげるような大人になってくれることを願いたい。そんなことを言うことができるのは他でもなく未来の彼らしかいないのだから。

 

 

 

(続く)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

=番外編=

 

砂漠にて、少しお堅そうなおじさんに写真を頼んで見た。

 

「あ、このアングルで写真撮ってくませんか?」 

 お兄さん「おお、もちろんだ。カメラを貸してみなさい。ほう。これで撮るのか。よーしいくぞー。3.2.1.....」

 

 

 

パシャッ

 

お兄さん「どうだ?うまく撮れているか確認して見てくれ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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。。。。。

 

 

 

 

 

これは日本でよくある「あ〜〜ミスったミスった〜〜。インカメだったわ〜〜〜。」とは訳が違う。この表情を見る限り、どう考えてもガチのやつだ。ガチミス。

2人で大笑いしました。

 

 

 

 

 

 

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無理言って、撮り直してもらいました。笑

 


 

 

 

*1:バクシーシ:古くからエジプトに存在する、上の者が下の者にモノを与えるという概念のこと。”モノ”とは言っても、現地人と旅行者の間ではほとんどが現金のことだ。