20歳エジプト紀行1 [0.5日目]

 

[出発前〜到着編] 

8月11日、9月3〜5日

 

 

 

8月11日

 出発日から遡ること約1ヶ月弱。

実はこの時はまだ、行き先をエジプト、デンマーク、ネパール、チベットと迷っていた。

エジプト自体に憧れはじめたのは、小さい時に見た映画ハムナプトラシリーズや、父親に買ってもらった青い鳥文庫の「ツタンカーメンの秘密」とかの影響だと思う。あ、あとハガレンの砂漠越えとか。そうやって果てしなく遠いように思えるエジプトの様相の片鱗は実は身近に散らばっていて、俺はそのカケラを拾い集めては目を輝かし続けてきた人間だ。誰しもそうやって憧れの地があるんじゃないかなあ。

そして20歳のこの夏は、ひとりで行ける準備が自分の中で整いつつあるタイミングだった。

そんな感じで昔からずっと行きたい国ではあったけど、それでもほかの国と迷っていた理由は、「こんなご時世に一人でエジプトってもしかして無謀なんじゃねえか」という臆病な自分。

それは、ずっと憧れだったエジプトを目の当たりにするには、自分の目と心がまだまだ若いのではないかという不安と、やはり身の危険に対するもの。

周りの人たちにも「危険だよ!」と、すごい止められた。

 

実際、ハシェプスト女王葬祭殿でのルクソール事件をはじめ、いまだに向こうでは、主要都市にて散発的にテロが起こっている。特に昨今はIS関連のテロ情報は後をたたず、おかげで近年のエジプトの旅行者数は最盛期に比べ大きく激減している。

 

とは言っても、こういう事実と同時に世に流れているネットメディアの情報や人々の話の大半は、どこかの誰かによって肉付けされてしまったものたちばかりで、いざ行ってみると全然そうじゃなかったりする。参考にはできても100パーセント自分の知識としては扱えない。

やっぱ自分の目で確かめるのが一番いい。つーか本当はなんでもそうでありたいよね。かいつまんでるだけじゃ見えてこない部分も見てみたいんだ。

そう思えてからは航空チケットを取るまで一瞬だった。最初からエジプトだったんだなー。

 

 

 

9月3日夜20時

自宅にてパッキング開始。40リッターのリュックに、パスポート、現金、スマホなどの必需品から、土産物のかわいいミニオンのフィギュアまで詰め込む。今回も、決まっている予定は往復の航空機だけ。行き先も泊まる宿もその日に決めて、それから動く。

そんな具合で、現地では移動し続けるので、荷物に関してはたくさん持って行く安心感より、なるべく少なくすることによる身軽さの方が圧倒的に大事だ。

しかも今回の行き先であるエジプトは現在夏真っただ中で平均最高温度がだいたい35―45度、時には50度を超えることもあるらしいから尚更身軽でなくちゃいけない。(普通の旅行者は避けるシーズンらしい。バカ暑かった。)

 まあ、こんな偉そうなことを言ってっけど、出来上がった荷物の少なさには毎回軽く不安になってしまうのよね。笑

 

「あららー。こんなんで大丈夫かー?リュックの容量半分くらい余っちゃってっけど。…まあいいか。」

 

椅子にもたれかかる。

するとこの時、自分の中にジワジワと旅に行く実感が湧きはじめてきたのがわかった。

こんな早くにエジプトに行けるとは思ってもみなかったなあ。自分で行くとは決めたものの、直前になったらやっぱ不安になるもんだな。でもそんくらいじゃなきゃ面白くない。

 

 

9月4日夜19時

成田空港にてトランジット地点である北京行きの機体に搭乗。

カイロまでの往路は、北京のトランジットを含め17時間。格安航空ではお決まりの機材変更による遅延やらで1時間20分待機させられる。トラブルによる長い待ち時間は、どこかの席から赤ちゃんの笑い声が聞こえてきたり、隣の中国人のお姉さんがシートの上に胡坐かいて窓の外を眺めながら桃に丸ごとかじりついていたり。

うわー楽しい。まだ日本なのに、この機体のなかはもう中国です!と言って良いんじゃないかってほど、機内は中国人でいっぱいになっていた。久しぶりの遠くに旅立つ感覚に、ウキウキしてしまう。やっぱいくつになっても、飛行機は興奮するな!

そうやって早くも旅モードでじっと待っていると、なぜかいつの間にか眠りについてしまっていた。

起きた頃には既に機体は高度約9,000mで安定した体勢をとっていて、隣のお姉さんのフライトジョイは桃から赤ワインに変わって代わっていた。

げっ。なんか最近の飛行機の離陸は寝過ごしてばかりでもったいねえな。

 

寝ボケた頭を覚ましながら、とりあえず腕時計とスマホの時計の時刻を北京に合わせ、あらかじめ用意しておいた「地球の歩き方 エジプト編」を開く。どうやら9日の滞在期間では、ナイル川を下ってまたカイロに戻ってくるのが精一杯らしい。(これでも12日かけて回るコース。笑)

まともに睡眠も取れなさそうだなーこりゃ。面白そうだ。ただ帰りの便を逃して、到着日から始まる学校に行けなくなるのはやだなあ。

なんてぼんやりとカイロ到着後のプランを組み立ててみる。それ通りに回れることなんて絶対にないのだけど。

 

すると突然、離陸前まで桃にくらいついていた桃姉さんが「お、尻の青いジャパニーズボーイが起きた!」と言わんばかりのテンションで流暢な英語で話しかけてきた。彼女はずっと窓の外を見つめてたから、社交的では無いないのだろうと踏んでいたが…

何はともあれ、この旅での話し相手第1号だ。

 

中国もいつかちゃんとまわってみたいなあ。

 

 

22時10分北京到着。

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空港綺麗だなー。

久しぶりに訪れた北京空港のセキュリティーチェックの列は、相変わらず大量の乗客でごった返しており、一向に進まない。けど、旅はまだ序盤なので全然楽しい。

 

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搭乗ゲートの窓から見える飛行場の景色はどの国もよく似てる。その中でも管制塔だけは、その国の特色を纏った外観をしていることが多く、ここのは北京オリンピックのときに建てられた北京国家体育場のようなテイスト。(奥のほうにうっすら写ってるんだけど見づらいね。笑)

夜の飛行場は航空灯火を眺めているだけで、これから始まる冒険の前兆のようなもの感じさせてくれるから好きだ。飛行機が飛び交う音に身をゆだねる感覚で、ぼーーっとしてると普段の悩みや考え事が、最初から無かったかのように跡形も無く消えて行く。この辺で日常の自分とは一旦お別れ。

 

 

 

北京時間で00時20分 ようやく待ち焦がれたエジプト航空に搭乗。

 

指定通り、エコノミーの狭い窓側の席に座る。

エジプト航空のフライトでは、出発直前に機内の全画面に煌びやかなモスクの写真が映し出され、放送でコーランが流れる。何を言ってるかは不明だが、聞いていて心地は悪くない。(のちに出会った日本人バックパッカーは、コーランを聞くとISを連想してしまい、気分が悪くなると言ってた。これもリアルな感想だと思う。)

 

コーランが流れ終わるといよいよ離陸体勢。到着したばかりの北京とはもうおさらば。

次来る時はもっとゆっくりしてくぜ!なんて思っていると、出発時間ギリギリに、突然大髭生やした超巨漢のエジプシャンが汗だくで大型旅客機を軽く揺らしながら駆け足で搭乗してきた。

ここで俺は、ふわりと嫌な予感がした。

周りの席で、俺の隣のシートだけが空席のままであることにはずっと前から気づいていた。軽く見回しても周囲はほぼ満席。俺が窓側だから、もしこのままあんな巨漢に隣座られたら左右が壁になるよ!しょうがないけどさ!フライト長いよ!

しかしそんな思いも儚く、ハグリッド(仮名)は窓側に座る俺にニコっと真っ白な歯を見せた後、ドシンと音を立てて俺の隣の席に腰を下ろしたのだった。

「まあそうなるわなー。。。」と思いつつ、明らかな苦笑いを返す。

 

 

00時50分 離陸

機体は真っ暗な北京空港の滑走路を走り抜け、カラダを浮かせた後はいっきにスペースシャトルみたいな角度でグイグイと上昇した。

窓の外の煌びやかな北京の夜景はどんどん遠ざかり、空を覆っていた雲を勢いよく飛びぬける。

するとそこには、まるで待っていたかのように綺麗な星々が姿を現した。

すげーーー!!空が近えーーー!!手ぇ伸ばせば星捕まえられちゃうんじゃないのこれ!!

まあ見事な満天の星空。こういうのだよこういうの。

周りの乗客が窓を閉めて眠りについたり、読書をしている中、一人で窓の外に釘付け状態。独り占めだぜ!笑

 

 (しばらくそれに見惚れたあと、我にかえり恐る恐るふと隣を見てみたら、案の定ハグリッドは爆睡していた。)

(しかも、俺の席の1/4ほどまで侵入した状態で。)

(トイレに行けないね!ん。まあなんとかなるか。)

 

 

 

 

 

9月5日午前4時、カイロ到着に向けて機体が旋回し始めたころ、機体の傾きで目を覚ます。どうやらまた、いつのまにか眠ってしまっていたらしい。姿勢を整え、これまたいつもの癖で窓の外をぼーっと眺める。外は真っ暗。何も見えない。

すると、自分が来た方角の東側の地平線に、ボッと一筋の光が現れた。そして、それは次第にぼんやりと大きく膨らんでいき、やがて包み込むように地球を捉えて、惑星の端っこに影をつくっていった。一瞬、なんじゃこれ?と思ったけど、その正体はすぐにわかった。

あ、なるほど太陽が追い付いてきたのか。

それを眺めていると、寝起きでぼーっとした頭がだんだん澄み渡っていくのがわかった。

涙を流して感動した訳ではないが、初めて宇宙と対面できたようなとても不思議な感覚に陥り、今まで一度も見た事ないような暖かくもありどこか冷たくもあるようなその空の表情にしばらくじっと魅入っていた。

傷だらけの汚い窓からの眺めだったけど、この旅で出会う忘れもしない絶景の1つだ!

 

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さあ、カイロまであと少し!