20歳エジプト紀行11 [アスワン編] 9月8日 

 

 

 

なんだこの街は。

ナイル川を恵として東川岸側に広がっている街、アスワン。

この旅の第二の都市であるここアスワンは、エジプト内でも5本の指に入る主要都市だ。しかし同じ国であるのに街の様子はカイロとは全く別ものだった。

街は『迷ったらとりあえず川に出れば良い」と言われるほど超シンプル構成。中心地は端から端までたった徒歩30分ほど。高いビルもなく車も渋滞していない。

”混沌の街”カイロとは何もかもが真逆だった。

 

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一方で、アスワンの先住民族である"ヌビア族"と呼ばれる部族の暮らす村が今もなお川の西側に存在している。

 

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(ヌビア博物館より)

彼らはエジプト人とは全く異なり、黒人の血統をルーツに持つ部族だ。

高い誇りを持ち、伝統を維持した生活を営んでいるのが特徴で、今現在では東西でいがみ合うことなく、お互いの生活を尊重しながら共存しており、村には観光者も足を踏み入れることが可能となっている。(ほとんど行かないらしいが。)

 

...と言う前情報だけ知っていたが、実際着いたアスワンからナイル川の向こうに見るヌビア村は明らかに異質な空気を放っていた。距離でいうと700mと離れていないすぐそこなのだが、明らかにそれ以上に遠く見えるし、街の建物の外壁が全て青一色に塗られている様も心の中に得体の知れぬ疑問と興味が生まれるには十分だった。

ましてや一人で向こう岸に行きたいと言うと、同行している2人や現地の人たちにも変わり者扱いを受ける始末。

おっと、これは楽しいことが起こる予兆だ。

待ってろよヌビア族。

 

 

 

ちなみにここアスワンの到着時間15:00時点での気温は41度。

全くをもってアホな気温だ。この暑さはフォローのしようがないほどアホ。日差しが直撃する頭部の中では、黒髪にこもる熱で脳ミソの煮物がいっちょ出来上がりそうだ。

とりあえずそんな灼熱地獄のなか、現在同行中のエイタとリカと一緒に宿をとって、近くのクーラーの効いたお店でコシャリを食べながら作戦会議をすることに。

ああ。クーラー最高。

 

 

エイタとリカは二人とも余裕を持った日程で旅していたが、俺は時間が限られているので、明日の夜にここを出発するために明日だけでアスワンとアブシンベルの主要遺跡を全部回りたいという旨を2人に告げた。

そしたら、2人とも全く嫌がるそぶりを見せず快諾してくれた。ありがたい話だ。さすが旅慣れている。

 

ちなみに2人は長期間日本を離れて中東からアフリカを何カ国か渡り歩いている途中だ。ここエジプトはホテルに泊まってツアーを組んだ旅行には最適だが、ゲストハウスを転々とするバックパッカースタイルで旅をするには比較的難易度が高いとされていて、こっちで会う人たちは様々な経験を持つ高レベルの豪傑ばかりだ。

このレベルの人たちはもちろん”人と旅をすること”に慣れていて、いわば「行き当たりばったりのスペシャリスト」なので、

①お互いストレスを抱えないようにする力

②何かが起こった時の軌道修正力

③ワクワクすることを探す力

の3つに十分すぎるくらい長けている。もしくは元々そういった気質だった人がのめり込んでいくのかもしれない。

実はこれは自由の中で責任を持っていることの証でもある。人のせいにしても何の意味もないことを知っているのだ。

 

そんなこんなで道端で会ったタクシーの運転手に交渉して、明日のドライバーを予約した。この時点で明日は超ハードな1日になることが決定。普通の人が2日に分ける日程を1日に詰め込んだスペシャルツアーだ。

アホな気温の中、アホなスケジュール。集合は朝4時。

いや〜、二人ともいい感じに頭がぶっ飛んでくれていて良かったぁぁあ。

 

 

PM 19:00

日も沈み、完全な暗闇と化したナイル川の方へ出る。

もうこの時点で薄々感じてはいたが、この街はハッキリ言って何もない。けどそれが良い。”都市”であるのにも関わらず、眼前が情報で溢れていないなんてことは、日本ではまず起こりえない。頭のなかが忙しくないのでこれは街の徘徊ではなく、公園の散歩に近いと思う。

真夏の夜風に当たりながら  ナイル川の向こうのライトアップされた謎の山は一体何なのか  を話しながらブラブラ歩く夜もまた旅の妙である。

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(このライトアップされた山でとんでもないことが起こることは、この時はまだ知らない。)

  

しばらく外を探索していると、目の前に何やら大きめのデパートが現れたので、入ってみることに。

中に入ると、時間帯が被っているからか、店員さんの数名がカウンターの後ろや売り場でマットを敷いてサラー(礼拝)を始めていた。1日5回もあるんだから大変なことだ。時間帯的に今は日没後の”マグリブ”だろう。

この時間ばかりは余程のことがない限り店員さんも仕事よりサラー優先だ。

しかしそれだけでなく店内の様子も負けじと異国情緒を漂わせていた。

 

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 #2F奥のアパレルの入り口 #目立ったもん勝ち精神の行く末 #どの角度からでも誰かしらと目が合う恐怖体験 #目の主張が強すぎて服に目がいかない #よく見たら服のジャンルが幅広い #客どころか店員もいない恐怖店舗 

 

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(二人には許可を取っていないので落書きでごまかしました)

#まさかの9D。  #3D、4Dから突然の9。 #意外と面白かった。

 

こんな感じだが、結局思うのは「テキトーさが良い!」ということでした。

 

 

pm 21:00

いい時間になってきたので、ここで一度宿に戻ることに。

しかしどうも消化不良の俺は、夜のスーク(商店街)に出かけることにした。

するとリカも行きたいと言うので二人で出かけることに。(エイタは部屋でスマホをいじりたいとのこと。)

 

 

夜のスークはたくさんの土産物と照明で人もいい具合に賑わっていた。

空を見上げると十六夜の月。最高の締めくくりだ。

いい感じにローカルなシーシャカフェがあったので、そこに入ることに。

 

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さて、席についてマンゴーフレーバーのシーシャとノンアルのビールを2本ずつオーダー。よ〜し、シーシャを吸いながらチルタイム...といくのが理想だった。

しかし、東洋人が夜中に男女でローカルのシーシャカフェに訪れることが余程珍しいのか、満席の店内のおじさん達全員がこちらをジーッとガン見してくる。

その見方も人さまざまで、黙って見てくる人もいれば、友達とニヤニヤしながら見てくる人もいるし、まあ正直かなり居心地の悪い空間だ。笑

しかし、その視線のほとんどを集めているはずのリカ本人を見ると、全く気にしてなさそうにスパスパとシーシャを吸っているので、まあほっときゃ良いか。

 

さすが関西人なだけあって話し上手なリカは、しょうもない話から、日本にいた時の自分の悩み、なぜこの旅に来たかを赤裸々に話してくれた。

あまり簡単に他人との壁を壊せない俺も、気がついたら自分のことをたくさん聞いてもらっていて、席を立つ頃には月の位置もずいぶんと変わっていた。

 

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am 00:30

シャワーを浴び、洗濯と明日の準備を済ませる。やはり宿は安心する。

いやはや。今日も大変長い1日だった。

不眠に陥った夜行列車で15時間かけて訪れたアスワン最初の夜。

さすがにベッドに飛び込んだ瞬間、自分がいかに疲労しているかがわかった。

さすがに今晩はしっかり寝なくては。

 

 

 

 

 

 

さて、明日は4時集合だから3時半起きくらいか。

 

おい。3時間後じゃん。

 

 

 

 

 

 

 

 

(続く) 

20歳エジプト紀行10 [特急列車 編] 9月8日

 

 

9/8 AM11:30 深夜特急

窓から遠慮なく降り注ぐサハラの燦々と降り注ぐ陽光を顔面に直に食らって目を覚さない人間など、きっと存在しない。

 

目を開けたら閃光弾一発。

 

 

斬新な目覚めだぜサハラさん...!!!

 

 

 

 

結局昨晩はうまく寝付けず連結部分に行ってタバコを吸っては席に戻って、「さあ寝よう!」と試みるも、気持ちが浮ついて眠りにつけない。そして結局、何も見えない窓を見つめる、の繰り返し。

おそらく就寝したのは夜が明け始めた5時過ぎ頃だった。

 

 

 

しかしそんな孤独の夜が嘘だったように窓の外は真っ白に明るかった。

まあ〜飽きないわ、この景色!

 

”人が炎をずっと見つめていられるのは同じ形になることがないから”

などとよく言われているが、砂漠も同じだろう。

 

砂しかないのに同じ表情は見せない。

 

 

さすがですよサハラさん。

 

 

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(窓からの景色)

 

 

 

 

 

こんな景色から急にポッと生活が現れたりする。

 

 

 

 

 

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不思議でしかない。

ナイル川が流れているとはいえ、こんな砂漠のど真ん中で生き延びていられることとか、どうしてここを選んだのか。はたまた選べなかったのか。

 

 

 

 

到着予定時刻までまだ時間があるので暇つぶしに連結に赴く。

 

するとそこは、すっかり昨晩の危険な空気とは打って変わって、そっと日差しがさしこむ優しい空間に生まれ変わっていた。

 

 

 

 

 

 

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落ち着く。

時間帯は昼前だが、そもそも時間という概念すら存在していないような穏やかな空気で満ちていた。

 

一定の速度で流れ行く景色も、抑揚や展開の少ない心地よい音楽のように、俺の意識を尊重してくれているように思える。

 

 

 

スーーーッ、ハーーーーー...

スーーーッ、ハーーーーー...

 

 

 

 

 

 

 

すると突然、反対のドアでタバコを吸っていたおっちゃんが話しかけてきた。なんだよ気持ちよく深呼吸してんのに。

 

 

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「おい君!このドアね、開くよ?」

 

 

 

 

 

 

...え、まじ?

 

 

 

 

 

早速ドアをブチ開けて半身を少し風に委ねてみた。

とたんに列車連結部分に満ちていた空気はドアから溢れ出るように逃げてゆき、走行スピードと同速度の突風が俺の前髪を吹き飛ばす。

 

 

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うわ。外だ。

 

走ってる電車から身を乗り出したことなど今まで一度もなかったから、心臓がなんかもうバクバクいっている。

これでもう昨晩の暗闇とも負い目なく仲直り。

 

 

 

 

 

 

 

 

ああ、生きてるな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

PM 14:30 アスワン到着

 

 

 

 

 

 

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電車から降りて、エイタとリカと14時間ぶりに合流。ちなみに2人はめちゃくちゃ寝れたらしい。

 

さて、ここは気温は摂氏41度。

日焼けで火傷を負うこともある。

 

 

 

 

 

この時点で、なんとなく「ああ、こっからはしばらく休みなしの苛酷な闘いになるな」という予感がした。

 

 

 

 

 

 

 

しかしこの後、そんな予感を遥かに超える地獄と楽園を旅することになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(つづく)

 

 

 

 

 

 

 

 

p.s.

2年前になってしまったけど、旅の記録を書きつづけることに意味を見出せるようになってきた。

恥ずかしい話ですが、20歳の自分に少し救われております。

ここまで読んでくれている冒険好きのあなた、いつもありがとう!

 

 

 

20歳エジプト紀行9 [アスワンへ 後編] 9月7日

 

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(バカシンプルな形をしているが、国土面積は日本の2.6倍。その9割が砂漠だ。)

 

 

 

バスの中では、出発する前から到着した後までしっかり眠っていたので、便利に瞬間移動した気分だった。

ぐっすりスヤスヤ夢心地も束の間、見知らぬ女性の乗客に叩き起こしてもらい、運転手にバスから追い出されてみたら、そこは馴染みも目印もない場所。

あーらら。完全に迷子じゃん。

 


9月7日 PM04:00 

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異国にてインターネットが繋がらない状況下で迷子になるのは、一瞬ドキッとする。

バスを降りた俺は、砂煙の立ち込める高架下で呆然と立ち尽くしていた。

一瞬のパニックが頭を過ぎ去ったら次は、"そんなんじゃ生きていけないぞ"という危機感が頭を我に返させてくれる。

ああ!もう思い切ってタクシーに乗っちまおうか!

 

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半ば投げやりに通りの方に出る。

車がビュンビュン通り過ぎていく。こんなところでタクシーなんぞ止められんなと頭が理解する。

すると、ビビッドグリーンのヘッドホンを肩にかけたノリノリのあんちゃんが近づいてきた。やっぱり東洋人は相変わらず人気なんだな。(カモとして)

しかし、いつもの金銭目当てのご来客とは少し雰囲気が違うようだった。

 

あんちゃん「おい迷子か?どこに行きてえんだ?」

「んー。まずここがどこだか分からないんだけど。。」

あんちゃん「ここはカイロだよ!おい、あんた大丈夫かい?笑」

「ああいや、それはわかるんだけどさ(笑)じゃあ、ここから考古学博物館は近い?」

あんちゃん「まあ〜、車で15分くらいだな。タクシー乗ってけよ。」

 

お、なんだ!よかった。意外と近いじゃん!安心した。

しかし驚いたのはその後だった。

あんちゃん「まあここで待っとけよ。」 

そう言ってあんちゃんは、ビュンビュン道路に飛び出てタクシーを捕まえてきてくれたのだ。

 あんちゃん「ここは車両が溜まらないから体張らないとタクシーが止まらねえよ!運転手にはぼったくらない様に言っておいたから(笑) そんじゃな!」

そう言って再びヘッドホンを耳に当てると、彼はそそくさとその場を去っていった。

もう言葉がなかった。

日本からはるばる一人で来てるがいつだってひとりじゃ何も出来やしないのだ。

そして、エジプトの人たちはいかなる局面でも基本的に異常なほど優しい。

 

だめだ。もっと積極的にこの人たちと交わろう。

もちろんユーモアやモラル、品のあるアプローチで。

お邪魔してる身なんだから当たり前だ。

 

 

さあ。カイロに帰るか。

 

 

 

 

 

 

 

 

PM 17:00

もはやホーム感すら感じるカイロの街を、多種多様な騒音の粒子に包まれながら、オンボロタクシーがゆったり走る。

運転席はもうシャイアじゃない。街に帰ってきたことをしっかりと認識するまで少し時間がかかりそうだ。

 

とりあえず情報を得るためにゲストハウスが集まる地区へ向かおう。

現地のゲストハウスは旅行代理店の様な営業も兼業していて、比較的やすい値段でツアーが組めたり、電車の切符を手に入れることができる。

昨日、白砂漠へ向かう時のギチバスでなんとなく、”帰ってきたら深夜特急に乗ってエジプト南方都市のアスワンへ向かおう。”と決めていたので、あらかじめアリから紹介されていた宿へ切符を買いに行った。

レセプションの兄さんがインテリ系だったので、切符はすんなり手に入り、荷物は一旦宿に預けておくことにした。

 

電車の時間は23:45発。

さて電車の時間まで何をしようか。と考えていたら、イカツイ日本人男性と仲良くなり、彼も暇とのことなので軽く街でも歩くかということになった。彼のことは龍くんと呼ぼう。(ちなみに宿ではジャパニーズマフィアとか言われていた)

カフェでシーシャを吸いながら色々話して、龍くんの知り合いで世界を自転車で一周しているシゲ(仮名)と合流し、3人で夜のハンハリーリへ。

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(ハンハリーリの様子。人がごった返している。)

ハンハリーリとはもともと12箇所あったカイロのバザールを1つにまとめた大バザール。近年は旅行者向けの土産物屋やカフェの集まりになっているが、とにかく毎晩お祭り騒ぎだ。

人々の喧騒と過剰な照明による眩さ、どこからか聞こえてくるエジプシャンミュージック。まさに異国の繁華街といった感じだ。しかしこの街では、と言うよりこの国では、酒も女もギャンブルも禁じられている。よってこの喧騒はナチュラルハイの賜物なのだ。

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イスラム圏はみんな酒を飲まないので夜はカフェでシーシャや甘い甘い紅茶を飲んで盛り上がる)

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(エジプト版)

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(照明のお店もたくさんあった)

 

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(ハンハリーリの中心にあるガーマホセインという有名な巡礼地。異教徒は入場できない。)

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(カイロは普通にこういう街がポンと出でくる)

特に何を買うわけでもなく3人でバザールをぶらぶら歩いていると、ちょうど俺と同じか少し下くらいの現地の少年達が声をかけてきた。

『ヘイ!にいちゃん達!一緒に遊ぼうぜ!』

隣のジャパニーズマフィアが明らかに嫌そうな顔をしていたが、ここはいっちょ遊ぼうやと説得。

彼らはみんな18歳以下の5人組でよくここで遊んでいるらしい。

言葉もそこまで通じていなかったように思えるが、国境を超えて同世代と意思疎通を取るのはやはり特別な出来事だった。

少し厄介な言い方をすると、"この出来事はなんら特別なことではない、ということを気づかせてくれた"という意味で特別な出来事だった。

不思議なことに、一緒に遊んでいると、自分たちと彼らはなに一つとして違わないということに気づいていくのだ。

ボールを蹴るのはなんか楽しいし、ご飯の時間は生き甲斐だし、寝るのが大好きだし、恋をするし、古い友達としか共有できない笑いのツボ、でも新しい友達ができるととても嬉しい。

 

この歳で夜に友達と会っちゃうのとか、めっちゃ安心するもんな。心の底から楽しいよな。すげえわかるわ。

 

 

 

 

 

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(最年少のシャイボーイ。一緒のスノウで遊んだらすごい驚いてた。前もってダウンロードしてきて良かった〜。)

 

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(自分が写ってる写真の中でも数少ないお気に入りの1枚。みんな良い笑顔でしょ。)

たった数分ほどの交流だったが、最後は無責任に「絶対また会おうな〜」なんて言い合いながら別れた。多分もう会うことはない。そんなことは向こうもわかっているし、それでもお互い「絶対また会おう」と言ってしまった。

同じことを思っているだけで嬉しいのだ。きっとそれすら向こうも一緒。

なにも違わない。

 

 

さあそろそろ列車の時間だ。

 

 

 

 

PM 22:30 カイロの安宿

先ほど切符を買った宿にバックパックを預けていたので、タクシーに乗って戻る。

宿で荷物を受け取って、龍くんとシゲに別れを告げ、宿を出発しようとしたら、同タイミングで出発しようとしていたリカとエイタも、今から同じ電車でアスワンへ向かうとのこと。色々話してたら流れで一旦行動を共にすることになった。

二人とも関西人で、エリカはサバサバ系の元気なお姉さんという感じ。確か京都からだったけな?

反対にエイタはマイペースで口数も少ないいい奴そうなタメの大阪人だった。

こっちに来て日本人と行動するとは思わなかったが、なんとなく今日は二人が魅力的に感じたので、自分の中で「どんなに居心地が良かったとしても1,2日程度で別れる」と決めて共に旅をすることに決めた。

 

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(お久しぶりラムセス駅)

PM 23:45 ラムセス駅

もうあたりは真っ暗なのに駅のホームは大量の乗客で溢れかえっていた。

公共施設であるとは言え、日本と比べたらガッツリ無秩序化しているので、みんな番線をまたぐ時は線路に降りて渡って行ったり、端っこの暗がりでは、明らかにここで生活してますよねという人たちもいた。

これが国内最大級の駅であるラムセス駅。

しかし、この薄暗さとか危険な匂い、野生の質感がこの砂漠の夜の空気にはぴったり合っているので、まあこうなるのが自然だわなといった感じだろうか。これだって、ひとつの健康的な有様だと思う。

 

さて。エリカとエイタとは車両が違ったので一旦別れて、個人的に長らく念願であった砂漠の深夜特急に乗り込んだ。すると連結部分からすでに治安が悪く、パーカーのフードを被った大型の男性がタバコを吸いながらブツブツしゃべっている。おお。喫煙所はここなのか。

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(連結部分。真っ暗だったので明るく加工してもこれ。)

席は意外とゆったりしており、座席自体も安い皮仕上げではあるが、座ってみると体が軽く沈むレベルの柔らかさで、ある意味期待を裏切られた感じだった。

さてこっからは約17時間の乗車。向こうに着く頃には昼過ぎだ。

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(この車の所要時間は大嘘)

 

ギギギと音を立てながら車両はゆっくり走り出し、あっという間に最高速度に達した。これが意外と速いのだ。

 

朝5時に白砂漠で起きてからずっと行動していたので体は疲労困憊なはずなのに、なぜか全く眠くなかった。

外は真っ暗だし窓の汚れでそもそも何も見えない。

なのに"移動時間は窓の外を眺める"というのが完全に癖づいてしまって、なにも見えない漆黒の景色をボーーっと見つめていた。

 

 

 

 

気づくと、だんだん暗闇に引き込まれていく。

 

 

 

 

ガタンガタンという音、揺れ。

 

 

 

 

 

これも非常に心地よい静寂だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

列車はナイル川に沿って、およそ800km南の都市へ向かっている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

p.s.

驚くことにこれでまだ3日目

20歳エジプト紀行8 [アスワンへ 前編] 9月7日

 

 am 04:00

深い眠りだったのか浅い眠りだったのかはわからない。

寝袋の寝心地が体に合わなかったわけでも無いし、途轍もない寒さに襲われたわけでも無い。

なのになぜか、1時間で目が覚めてしまった。

こんなことは日本の生活では起こりえないので何度も時計を確認したが、やはり1時間。あたりはまだ暗いままだった。

 

けど、このまま二度寝なんて勿体なさすぎると思い、寝袋から体を出して肌寒い風をしのげるくらいのパーカーを羽織って近くの丘へ移動した。シャイアはまだ寝ているだろう。

 

良さげな丘を発見。足を滑らせながらズルズル登って建物3階くらいの高さから暗闇を見つめてみる。

すると、あれ不思議だ。

昨晩は何度も飲み込まれそうになったはずのその暗闇はもはや脅威ではなく、ただただ暗いだけの黒一色。それ以上でも以下でもなかった。

 

しかし、そう思ったも刹那。

それはそれは一瞬の出来事。

見つめていた方向の遠くのほうで、視線のいきつく一点を中心にして地平線に橙色の光が左右に向かって走り抜けたのだ。

お。これは見覚えがあるぞ。

初日のフライトで空から見たアイツだ。

 

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光の一線は徐々に拡散されていき、大きなオレンジ色のメラメラとした太陽があっという間に砂漠を照らし、他の何でもなく紛れも無い"朝"が訪れた。

これほど朝日に感謝したことは今までに一度もなかったかもしれない。そして、ここでようやく暗闇に怯えていた奥底の自分に気づく。思い返せば恐ろしい夜だった。頭も心も空っぽになった何かに変わった自分があてもなくフラフラと彷徨っていたのだ。

 

3日目の始まりにして、なにもかも許してくれるように黙って頭を撫でてくれる母のような光に涙が止まらなくなってしまった。

日が昇る前から無意識に日の出の方角を見つめていたのもなんら不思議なことではない。飼い主の帰りを待って玄関を見つめる子犬と同じ。

 

 

 

なんて浸っていると、遠くから自分の名前を呼ぶシャイアの声が聞こえてきた。

ああ帰る時間だ。

この感覚、持って帰れるかな。

 

 

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(シャイアが朝ご飯を作ってくれた。これまた絶品!)

 

 

さて。

誰のものでもない砂漠の一部を散らかした片付けをする時間だ。

朝ご飯を済ませ、シャイアと一緒にせっせとテントを解体する。

明るいところで改めて見ると、なんつうロマンに溢れたテントなんだ。

 

 

するとシャイアがこんなことを言ってきた。

シャイア「ここがサハラだよ。何か良い発見を得ることができたかい?」

すると、英語のテンポのまま俺は無意識なまま咄嗟にこう答えていた。

「うん。けどまあ、また来るからそこはあんま気にしてないよ。」

うお。我ながらその通りだ。

また来れるかは確実じゃないのが自然の摂理だが、思考ではない綺麗な丸っとした感覚だけは片付けて車に乗せずに置いたままにしておこう。

 

 

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(ちょっとテンション上がってカッコつけて撮ってもらった一枚)

 

 

 

帰路は取り立て何が起こるわけでもなく、観光スポットとなってあるチキンマッシュルームと呼ばれる鳥とキノコに似た奇岩(正直、これより好きな岩がたくさん見つかった)を見たりしながらバフレイアオアシスに到着。

俺にサハラを教えてくれた恩人とのお別れ。

とは言ってもまあここはアッサリで、お互いクサイ言葉を掛け合うでもなく、フラットに別れを告げた。

「また来いよ」

「もちろん」

 

 

 

 

そこからまた3時間ほどかけてバスでカイロに戻る。

乗り込んで出発する前に身の回りのセキュリティだけ確保し、早速爆睡。

起きるともうそこは喧騒と乾燥の都市カイロであった。

 

 

 

 

pm 16:00

一仕事終えた運転手に追い出されるようにして、バックパックを背負ってバスから降りるとそこはどっしりとした高架線の下。

相変わらずそこにたむろしている現地の人々から強烈な視線を向けられ、ウッとなる。

排気ガスと屋台の煙で視界が霞む。

明らかに他とは違う様子な老人に絡まれる。

俯きがちに擦り寄ってきた子供から粗雑な編み込みのブレスレットを買う。

 

 

短い時間で色んな出来事がパンパンに詰め込まれる街に帰ってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

。。。ふむふむ。

 

さて、一体ここはここはカイロのどこなんだろう。

 

 

 

(続く)

20歳エジプト紀行7 [バフレイヤ・オアシス、白砂漠 後編]

 

 

エジプトに行くと決めたとき頭に思い描いていた光景が白砂漠だった。
長いこと思いを馳せていると勝手にイメージが膨らみすぎて期待を裏切られてしまうんじゃないかなんて思っていた。
けど、そんな不安は吹き荒れる突風によって砂礫と共に跡形もなくどこかへふっ飛んでった。

本物にしか宿らない真実がそこにはあった。

くぅ〜!これだから旅はやめられん。

 

 

白砂漠に突入

 

 

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(白砂漠への境界線付近。その正体がだんだん露わになっていく。) 

 

白砂漠は元々海底だった地盤が、風土の変化によって起こった強烈な乾きで地表に現れたものだと言われている。
海底だった頃に積載した石灰岩と、海流によって削られたオカシな形をした奇岩が地上にありありと存在している様には有無を言わさぬ感動がある。

 

 

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(鳥とキノコに見えることからチキンマッシュルームと名付けられた奇岩)

 

 

陽が日没に差し掛かり、外が徐々に肌寒くなってきた。
1日の間に気温がここまで変化すると、日中に回った場所が別の日の別の国での出来事のように思えてくるなー。
なんて考えていると、シャイアが前方を指差し、ジェスチャーでこう言った。

シャイア「今日はあそこで寝る」

思わず雄叫びで返してしまった。

「おおおお!!!」

シャイアが指差した先には、大きな岩々によってできた小さな集落みたいな場所が!!!!
思わず車のドアの窓に腰かけて上体を飛び出させた姿勢でそこを眺める。

フロントガラス越しじゃないと尚良い!

 

 

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 ( iPhone5sだと白砂が夕陽に当たって白のまま写せない笑)

古代の人々はここに辿り着いた時、そこに街があると勘違いしたのではないだろうか。

 

 

そんなこんなで本日の拠点に到着。

 

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長いこと悪路を走ってくれてありがとう。



息を大きく吸い込み、カチコチになった背筋をグーーっと伸ばしながら、ゆっくりと深呼吸。大きく息を吸い込むと、その一回だけで口内の唾液が全て奪われるほど、空気は乾ききっている。

空はもちろん雲ひとつなく、地にはもちろん人どころか生き物が存在しない。

なんというか今までとは別の人生が始まったみたいだ。

 

 

長い運転の直後なのに、働き者のシャイアはエンジンを止めるや否や、せっせと砂漠用テントを張り始めた。
とりあえず手を貸すことにして、二人で簡易的なテントの骨組みを組んで行く。
チャキチャキと手際のよいシャイアを見て、ちょっと日本人っぽいなとか思いながら、数分である程度立ち上がってきたところで、シャイアは「ここからはもう大丈夫だ」と言い、ひとりで作業を進めていった。

とりあえずここからは手伝うこともなさそうなので、堪えきれずジェスチャーで聞いてみた。

「ちょっとその辺ぶらっと散歩してきてもいい?」

するとシャイアは少し心配そうな顔をしながら渋々okしてきた。
どこからどう見ても彼の顔には「あまり遠くへ行くなよ」と書いてあったので、
「ノープロブレム!」とだけ言い残して、日没をゆっくり眺められそうな場所を探し始めた。

少し歩いて振り返ってみるとシャイアはテントの立ち上げと同時並行で焚き火の準備を始めていた。ほんとに働き者だなー。

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目の前に林立する奇岩たちは個々で別の形と大きさをしているので、目印となりそうな岩を見つけやすい。
それを良いことに、距離を気にせずただひたすらに歩き続けた。

しかし、日が落ちるにつれて意識はハッキリしているのだが、どうも頭が回らなくなってきた。

夕日を眺めるという目的すら霞んでいく。

なんというか、歩いているという自覚のないままどこかに誘われているかのように前に進んでいるような感じ。
やがて頭は思考することをやめて、たった今置かれたこの瞬間に溶けていった。

自分の中の野生がいつもより出しゃばって来たのだろう。

 

 

ここは死の世界であると同時に、生を喜ぶ場所なのかもしれない。

 

その証拠に、はるか遠くの太陽がえらく優しい。 。

 

 

 

 

 

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オーーーーーーーイ

 

どこかからか雄叫びが聞こえてきた。
振り返ると、遠く彼方でバンダナをブンブンと振り回しながら大声で叫ぶシャイア。
やべっ!完全に忘れてた!!!!

いつ登ったのかあまり覚えていない巨岩を急いで降りて、シャイアの元へ走って戻る。

安堵の表情を浮かべるシャイアにゴメンゴメンと両手を合わせると、彼は「まあとりあえず座れよ」とテントの方を指差した。
するとどうやら俺が歩き回ってた間に焚き火でチャイ(エジプトティー。紅茶に近い味。)を立ててくれていたらしく、そこにどっさりと砂糖を入れて渡してくれた。

うひょーーありがてええええ。と、寒さで小刻みに震えながら受け取った。

 

とりあえず一呼吸。

シャイアと二人並んでテントに腰掛け、エジプトのタバコを吸いながら地平線に沈んで行く夕日をぼーっと眺める。

 

すると、寡黙なラブーフが乾き切った風に吹かれながらそっと呟いた。

 

 

 

「サハラ...」

 

 

 

 

はっは!!まったくキザなエジプシャンだ。 

その時のシャイアの目は淀みなく砂漠の果てを見つめていた。彼にとっての砂漠が何なのかは知らないし、これも現地サービスなのかもしれないけど、俺にとっての砂漠にはもう彼の存在が色濃く刻まれてはじめていた。

 

 

 

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(沈んだ夕日の光で浮かび上がったスカイライン)

 

 

 

 

そしてやがて太陽が完全に沈み、待ちに待った夕食タイム!!
シャイアが火を立ててスープ、チキン、チャーハンを振舞ってくれた。
これがまたほっぺたが落ちるほど美味いのだ!!!
長旅で腹ペコだったので、ガシャガシャと一瞬で喰らい尽くした。
にしても、一日中カラダ動かして最後にたらふくの飯にありつくなんていう生活はいつぶりだろうか。
体の奥底から喜びが全身に染み渡っていくのを感じる。

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あったけえ。。

ご馳走もなんとか平らげ、シャイアは持参のペットボトル水でざっと食器を洗い、一つのビニール袋に全部まとめてキュッと縛った。
そして少し前から沸かしていたチャイをコップに2杯注いで、一仕事終えたようにテントの絨毯にドシンと座った。そりゃそうだ。昼間の運転からぶっ通しだったもんな。

そんな感じでシャイアが立ててくれた食後のチャイをすすりながらタバコを吸ってぼーっとのんびりチルタイム。あたりはもう完全に真っ暗。音ひとつない。
と思いきや、静寂の中で突如ガサガサという音とともに目の前を何かがヒュッと通り過ぎた。
その方向にじっと目をこらすも、焚き火が照らすその先は暗闇で何も見えない。
するとシャイアが口でヒューッヒューッと口笛を鳴らし始めた。
立て続けに暗闇の方へ余った肉を投げ始め、おいおい勿体ねえな!と思った矢先、暗闇から現れたのは予想に反してとっても可愛いお訪ね者だった。

 

 

 

 

 

 


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「フォクス!フォクス!」と嬉しそうにシャイアが指を差すもんだからすかさず写真を撮る(笑)

フェネック!まさか会えるとは!
しかし肉を軽く齧ってまた暗闇に姿をくらました。
おお〜。いいもん見た。

 


夜のサハラは凄まじいほどの満点の星空だと聞いていたが、待ちわびた夜空に浮かんだのはそれはそれは大きな満月だった。
おかげで満点というほどの夜空は見れなかったけど、代わりにそれは夜の探索を可能にしてくれた。
月明かりが照らす夜のサハラはとてつもなく研ぎ澄まされていて、日中とは全く違った冷たい表情。
一瞬その鋭さに腰が引けそうになるが、空を見上げればそこには、昔っから何も変わらない見慣れたお月さま。

ただ今夜ばかりはいつもより格段にべっぴんさんだ。

 


ここからがまた強烈な冒険だったのだが、まあ正直言ってあんまり覚えていない。
というより今の自分の力では説明できない。
鮮明に覚えているのは月に照らされたある一つの巨岩が地面から出てきた大きな顔に見えて震え上がったことくらい。
いつもなら一目散に逃げているところだが、なぜかそこに居座ろうと決心し、結局そこに何時間か立ち往生して、ずーっと何かを考えていた。
その後もフラフラと彷徨いながら空と大地を独り占めにした気分で次の岩へ次の岩へと移動していった。

今思えばそこそこ危険な夜だったかもしれない。外的な脅威に対して無防備だったとかではなく、自分自身の問題で。

 

 

深夜3時前、テントに戻ると焚き火は消えていて、シャイアの姿はそこにはなかった。
車の向こうかどこかで寝ているのだろう。

砂と乾燥でカピカピになったコンタクトを外し、用意された寝袋に鼻まで潜り込む。
ああ〜こりゃ極楽だ。
こうして明日も目覚めたら信じられないような光景が目の前に広がっていて、また新しい冒険が始まるのか。

思わずにやけてしまう。

このまま寝るのもったいねぇなー。

いやーそれにしても長い一日だっあなぁー。

 

 

 

 

 

 

 

本当長い一日だったー.........

 

 

 

 

 

(2日目終了。続く...)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

20歳エジプト紀行6 [バフレイヤ・オアシス、白砂漠 中編] 9月6日

 

p.m14:45

愛おしきチビっ子2人に別れを告げ、バフレイアオアシスを後にする。

ここからはドライバーさんと完全なる2人旅だ。

目的地が”人のいる場所”から”何もない場所”に変更され、本格的に砂漠に放り出される。

 

それはそれは想像をはるかに超えるほど孤独な旅だった。

だけど、ずっと前から心のどこかで求め続けていたものだ。

 

 

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ハイ!カメラを向けると、気の良い笑顔を返してくれた彼こそがこの旅のドライバーさん。

こう見るとやっぱこの人、シャイアラブーフに似てるな。。。

ドライバーさんなんて呼ぶのもなんか味気ないし、ここからはシャイアと呼ぶことにしよう。(名前は何度も聞いたが、発音が難しすぎて覚えられませんでした。)

 

彼は英語がほとんど話せないので、可能なコミュニケーションの手段はボディーランゲージか表情か初級英単語のどれかだ。

けど、それで全然良いから一人のツアーにしてくれとアリに頼んだのだ。

現地のバックパッカーたちには「そんなのリスクが大きいし不便だ。」としつこく団体ツアーを勧められたが、言葉なんて喋れなくても互いに通じ合える自信があった。

むしろ初めて赴く憧れの地で、今日会ったばかりの人とベラベラ喋って仲良くするってのがどうもしっくり来ない。

ってなわけで本来なら団体ツアーで行くのが旅行者の中では一般的らしいが、アリの協力もあって俺のわがままを通してもらい、プライベートツアーにすることができた。

なので、小煩いガイドや指示も無ければ、行動や時間を誰かに制限されることもない。

何にも邪魔されない気ままな旅だ。

 

 

 

p.m 15:45

延々と続く1本道をかっ飛ばすこと約1時間。オアシスを出てからいまだに車とすれ違っていない。

そうしているうちに、あたりの黄色い砂たちが少しずつ黒ずんでいき、やがて一面が黒になった頃、シャイアは車を砂漠に乗り出して停車した。

最初の目的地、黒砂漠に到着だ。

 

その名の通りここらへん一帯の砂漠は、まるでカンカンと照りつけるアフリカの太陽で丸焦げになってしまったかのように黒ずんでいるように見えるのだが、真っさらな砂の上に火山灰が被ってそう見えているだけなのだそう。(地球の歩き方より) 

 

すると車を停めるやいなや、シャイアがボディランゲージで「ここで待ってるからその辺の山登って来いよ」みたいなことを言ってきたので、そこそこ高いやつを登ってみることにした。

 

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少し登って振り返るとこんな感じ。(傾斜が伝わりづらい)

 

車を飛び降り、大きくノビをして軽い足取りで山に向かう。

...がしかし、50mほど歩いたところで立ち止まる。

そういえば肝心なことを忘れてるぞ。

そう。なんの懸念も無く邪魔なバックパックを丸ごと車に置いて手ぶらで出てきてしまったのだ。

このまま自分の荷物ごと車で走り去られたら結構しんどい。。ってか死ぬな(笑)

車で1時間なら最悪歩いて道を戻ればなんとかなるか。

いやでも水が無いわ。。。

 

......とかなんとか一応考えるのだけど、こういう時ってだいたいもう何を考えても足が言うこと聞かん(笑)

めんどくさい!もうこのまま登ってしまおう!

アリやシャイアを信じているし、何より山の上からの景色がいち早く見たいのだ。

 

ってなことで、そんなこんなで思ったよりもキツかったけど登頂。

頂上から見渡した辺り一帯は、地面からドカドカとブチ上がってきたような漆黒の山々が群れをなしていて、どこを見渡しても最高にロックンロールだ。(肝心の頂上からの写真は撮り忘れてました。笑)

 

そんで、ここまで何度も言って来たと思うけど、改めて砂漠ってすげえ広い。

頂上からの景色を眺めていると、この世界には本当は砂漠しかなくて、そのど真ん中にたまたま自分が立っているのだけなのではないかと錯覚してしまう。

もしくは、地球とは別の惑星に来てしまったかどちらかだ。

 

 

 

 

さて、続いての目的地はクリスタルマウンテン。

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一見ただの小さな岩山って具合なのだが、目を凝らしてその岩肌をよーく見てみるとこんな感じ。


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ああこれはクリスタルだわ!別に普段見慣れているわけではないけどこれはクリスタル!

 

触ったら痛そうだな〜!と思ってなんとなく指の腹で軽く押すように触ってみたら結構痛かった。

硬いんだね〜クリスタルって。

 

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(デイヴィージョーンズのアゴ)

 

しかし、訪れた旅行者が次々とそこらのクリスタルを削って持ち帰るから、ずいぶんと量が減ってしまったそうだ。世界的観光地(今となっては人っ子一人いないが...)とはいえ砂漠を管理するなんてのは随分と大変なことなんだろう。

 

 

4WDは更に奥の砂漠に向けて走り出し、落ち始めた夕陽が少しづつ砂一面をオレンジ色に染めていく。

しばらくして車は、舗装されたアスファルトの道から外れ、今までずっと窓から眺めてた砂漠の上へと走路を変え、砂と岩の道無き道を走り始めた。

車内では何度か頭を天井にぶつけながら、相変わらず取り憑かれたかのように沈む夕日と砂漠の山々を眺める。

走る道がアスファルトから砂漠になっただけで速攻気分は有頂天だ。

ウヒョーーーー!!!

窓から押し入ってくる突風を吹き返す勢いで雄叫びをあげてしまう!

BGMはシャイア選曲のエジプシャンミュージック!

最高だ。正直、風とBGMの音で自分の叫び声すらまともに聞こえないけど(笑)

 

すると突然、車の速度がグイグイ上がり始めた。すぐさま隣をみるとシャイアがワルな表情でニヤリと笑っている。

うそ!シャイアそういう感じ!?と思い、俺も「もっと上げろもっと上げろ!」と煽りまくっていたら、気づいた時には車が、砂の隆起と沈降の上を滑走するジェットコースターみたいになっていた。

どうやらさっきの叫び声は彼の方に届いていたらしい。

車と同じようにふたりのテンションも止まることを知らず、大声でラジオから流れる曲を歌い上げる始末。笑

これはもう本当に良かった。このあと、この瞬間を何度も思い出すことになったくらいだ。映像や気温や砂漠、音楽、あとは風とか気分とかそういうものが混ざり合ってなんかもう思考なんてとっくに追いていないような、とても幸せな時間だった。

ほら、やっぱり言葉無しで通じ合えるじゃんか。

 

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(そら腕も丸焦げますわ)

 

ほどなくして車は白砂漠を目の前にした謎の大木の下で停車した。

シャイアは、「ちょっくら小便小便〜」みたいな感じでその大木の陰に小走りで消えて行ったのだが、その背中を追っかけてくと...

 

 

 

 

 

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おいシャイア。名スポットだろここは。

日の落ちるタイミングもバッチリじゃないか。

あ、でもマジで小便してるわ...笑

 

 

 

 

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いい写真も撮れた。

 

 

 

なんだかんだ俺もそこで用を足し、少し時間に余裕がありそうだったので、すぐそばの小高い岩に登って座ってみる。

すると、たちまち心地の良い孤独感が全身を包んだ。

体がいつもの何倍も軽い。このままいなくなってしまいそうだ。

 

 

 

 

 

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見渡せば向かう方角の砂漠が白い。

待ちわびた瞬間はもうすぐそこだ。

 

 

 

 

 

 

 

『小話② Skyline』

 

突然ですが、俺は病的な稜線フェチです。
稜線というのは、一般的に、山の峰と峰を結ぶ線のことを言います。そしてそれは地表から山を見た時にできる山と空の境界線と同じものです。

その他にもビル群、田んぼ、大河川、海(水平線)、住宅郡などにも空との境界線が浮かび上がります。これらのことも稜線って言うのかな。

まあ、そいつらの本当の名前を知らないので、全部ひっくるめて稜線と呼んでいます。

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(↑羽田空港から見たビル群の稜線)

 

そして、俺はふと現れるそれらに一度意識を持ってかれてしまったら、そう簡単に帰ってこれなくなってしまうんです。

身近なもので言えば、日が沈みきる直前の空のまるで海中にいるかのようなあの黒と青のグラデーションが、川のあっち側で水平に広がる住宅群に消えていく様子とか、最高だ。

このエジプト旅行でも色んな表情の稜線に出会った。

 

 

 

 

 

 

 

 

もし今あなたがどこかで、ある遠くの稜線を眺めていたとして、その稜線上に"誰か"が立っていたとすると、逆にその人から見たこちら側の稜線の上には"あなた"がいるということになる。

つまり言ってしまえば、"誰しも"が今この瞬間そこで何をしていても、何処かから見た果てしなく長い一本の稜線の上にいるということになるんです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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とかなんとか考えたりするわけで...。特に旅先では。

でもこれ地下にいる時はちょっと例外ですね(笑)